「寒い」
一言、寒いとつぶやいたら。もっと寒くなってしまった気がする。そんな薄着するからだよ、とケラケラ笑いながら隣のマフラーぐるぐる男がうらめしい限りだ。
「佳くんに可愛いって言ってほしかったの」
お気に入りのふわふわ、ひらひらなこの服。11月の18時過ぎにはちょっと寒かったようだ。マフラーまいてても、ちょっと寒い。佳くんはなに言ってんだかと言いながらぐるぐるのマフラーを外しはじめる。顔にやけてるぞ。
「なにやってるの?」
「んー?」
「わっ」
もふっと、さっきまで佳くんが首にぐるぐるまいていたマフラーをまかれる。黙ってされるがままにする。二重マフラーなんて、わたしは北極の人ですか。マフラーをまき終えた佳くんは満足げに、北極の人みたいとまた笑った。あれ?以心伝心?
「暖かくなった?」
ふんわり、香る佳君の匂いにドキドキする。なんて変態くさくてやだなあ。ごまかすようにあわててうなずいた。暖かいのは。佳くんのマフラーのおかげでもあるけど、せいでもある気がする。だって、なんか、
「(…顔あついし)」
佳くんは寒くないのかな、なんて心配しても佳くんは寒くないよと笑うだろう。優しくて、かっこよくて、たまにすごく可愛くて、それから、んーと。大好き。
「手、」
「んあ?」
「…なんでもなーい」
「繋ぎたいのか」
「べつに」
嘘つき、聞こえたかと思ったらいつのまにかわたしの手は見事にさらわれていた。もちろん佳くんの右手に。さらにあつい。日が暮れるのがはやくなったこの頃。どんなに暗くても、こうやって二人で手を繋いでいられたら。絶対に離れない自信があるなあ。
恋ひ余るその理由は
(恋心が包みきれず外にあらわれる)
「反時計回り」様へ!
「Ao.○△□」より。
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