企画


 







 こっそり秘密をあげるわ。二人だけの秘密。甘い甘いこの香り、おもわずゆるむ口元は、きっとこれが原因。



「好き」
「は?」
「マカロンが」
「……。」


目の前にいる絵本から飛び出したような格好の男は、雑誌を持ちながらもわたしの顔から目を離さない。

彼の名前は吸血鬼、バンパイア、じゃなくてなんだっけ?そういえば知らないや。この人(というか吸血鬼さん?)がベッドに入ってそろそろ寝ようかと目をつぶると現れるようになったのは、ちょうど一ヶ月くらい前の10月1日。

突然現れた吸血鬼さんは突然わたしに好きだ≠ニ告げた。突然のことすぎて叫ぶに叫べなかったわたし。もちろん丁重にお断りさせていただいた。

まず自分のことを吸血鬼って名乗るとこが怪しい。いきなり好きだ≠ネんて、生憎わたしとあなたは初対面でしょ。落ち着いた頃にそう答えたわたし。

そんなわたしの言葉を聞いていたのか聞いていなかったのか、吸血鬼さんはもう一度好きだ≠ニ繰り返してまた夜に消えていった。

今だに色々信じられないと言いたいところだけど、なにせここは2階のわたしの部屋。こんな夜に親が家に入れるわけもないし、歯が鋭いし、服は真っ黒。本当に吸血鬼(もしくはお化け?)だということは認めるしか無いらしい。

それに加えて、わたしの前に現れるたびに必ず一回は好きだ≠ニか甘ったるい声で信じられない言葉を口にするもんだから。



「マカロンかよ…」
「うん」
「太るから夜は食べないんじゃなかったっけ?」
「今日は特別」


は?という顔。ちょっと間抜けで可愛いかもしれない。

もうそろそろめくられてしまう日めくりは31の数字。そうです。今日はハロウィーン。

ハロウィーンだからといってイチャつく彼氏もいないわたしは早々とベッドで目をつぶった。吸血鬼さんを待つために。


「ハロウィーン知らないの?」
「知らん」
「彼女がお菓子持ってないと彼氏に悪戯されちゃう日だよ」
「なんだそれ」


意味わかんねえと嘆く彼に、あながち間違ってはいない気はしない説明だけではなくちゃんとした説明もする。

由来とかは知らないけど、トリックオアトリート?とかお化けに変装したりとかそういうのを。


「へぇ、だからお前はマカロン持ってるんだ。彼氏いないくせに」
「うっさい。用心にこしたことは無いの」
「無駄なことを」
「ふん 」


無駄ですと?これが無駄にならないかもしれないんですよ吸血鬼くん。

今日早くベッドにはいったのは間違いなく早く吸血鬼くんに会いたかったから。

まあ、とりあえず君の名前を聞いて(最初は名前なんて興味無かった)いつの間にか君が言う言葉に一喜一憂する自分に気づいたことを伝えて(今日よりもう少し前に気づいた気持ち)それから、それから


「ねぇ、」

「好き」



赤い舌先が愛を零した



「…マカロンが?」
「違うよ。お菓子準備しといた理由ね、君に悪戯されないようにだよ」
「……」
「彼氏になって、名前を教えてください。」
「…おれ、吸血鬼だよ?」
「あはは、いまさら?」


そう笑ったら、透き通るような白い頬がほんのり紅に染まった。
そして、吸血鬼くんはゆっくり、言葉を紡いだ。歯のうくような愛の言葉と、初めましてな君の名前。




ハローナイトメア様へ
Ao.○△□より。







  
  
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