企画


 






「あ、」


無意識だった。無意識のうちに零れた声の原因は、ある人の姿が視界にうつってしまったこと。
道端、交差点、信号待ち中。
田舎の中では都会なここだから、少なからず人はいる。
数人と一緒に信号が赤から青に変わるのを待っている中、偶然見つけてしまった。


まさか、出逢ってしまうなんて。
あっちはわたしに気づいていないようだから、出逢ったというには少し違和感を覚える。




高い身長、頑張ってセットした成果があらわれているツンツンした髪、ゆるゆるにつけられたネクタイだって、かっこいい整ったあの顔だって、何一つ変わっていない。

唯一、変わったことがあるとすれば。隣に、知らない女の子がいるってこと。



「どうかした?」


隣からの声に思わず振り向く。
見上げた先には、きょとんとした顔。髪は短髪。ツンツンなんかしていなくてむしろ、ツンツンさせる髪がない。
身長だってそこまで高くない。かっこいいかかっこよくないか聞かれたらかっこいいんじゃない?って言われるくらい。
「わたし、タイプ変わったのかなー?」
「は?」


きょとんとした顔ににっこり笑いかける。
世間一般で言うとすれば、いわゆる普通な隣の彼は今度は未知の宇宙生命体を見るような顔をしていた。
失礼なやつ。普通なくせに( かくゆうわたしも人のこと言えないけど )
だけど、わたしにとってはツンツンしたイケメンな彼より百倍はかっこよく見える。
まったく、恋とか愛はおそろしい。


「なんでもなーい」
「んだよ?」


もし、もっと前に。彼と、彼の隣にいる知らない女の子が一緒に歩いている姿なんて見たら、わたしは立ち直れなかったかもしれない。

同じ、この場所で。
確か中学へ登校中だった時。
まだわたしが彼を好きだった頃。
この交差点で、偶然一緒に信号待ちしたことがある。
めずらしく周りに人がいないかったりして、一人勝手に緊張したのを思い出す。

好きで好きで。大好きだった。少なくともわたしにとって、中学校生活は彼を中心にまわっていたと言ってもおかしくない。見ていられるだけで幸せで、話しかける勇気もなかった。
…だけど、それはずっと昔の話。



「ねねね、手繋ご」
「は?やーだ」
「けち!」


今、わたしの高校生生活は隣にいるこの人を中心にまわっている。
他の女の子が知らないかっこよくないとこだって、かっこいいところだって知ってる。
一緒にいる、それだけで良い。そう思えるくらい好きだ。


「あ、青だ。…行くぞ」
「え?」


一歩先に進んだかと思ったら、半分振り返りながら差し出される手。
自然すぎて逆におどろいた。
はずかしがり屋なくせに。顔だってほんのり赤いから、こっちまではずかしくなる。


「はーやーく」
「お、おう!」


ちょっと拗ねたような声を聞いて、あわてて差し出された手を握る。顔をのぞいたらおうってなんだよ≠ニ笑われた。
繋いだ手があたたかい。
ななめ前を見てツンツンした彼を見る。
グッバイ、わたしの恋心。なんてくさいこと心の中でつぶやいて、繋いだ手を思いっきり握り返した。







グッドボーイにさよならを( ハロー、そしてグッバイ、あの日のわたし )







反時計回り」様へ!
Ao.○△□」より。





  
  
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