着ぐるみカレシ。
ぐるみカレシ。

6. 駆け込み乗車の
 危険性について。 [1/19]



それは、あまりにも
突然で。

そりゃもう、ありえないくらいに唐突で。

想像もしなかった人から贈られた、キスだった。



仲山光里、17歳。

先日、ファーストキスを奪われました。

あのちんちくりんの夢色ウサギ野郎、

葉山杏平に―…















「…………」


殺風景な自室のベッドに寝そべり、枕に顔を埋める。

私の、いつもの日曜日の過ごし方。

ずいぶんご無沙汰だったような気がするのは、ここんところ毎週のように遊園地通いに付き合わされてたせいだ。


「…うあー…」


無意味に出したうめき声が、枕に吸い込まれる。

あー、私今、枕とキスしてるのか。

いや、何言ってんだ私。
意味わかんないって。
意識しすぎだって。


「…仕方ないじゃん」


いきなり、あんなことされたら。

どうすれば良かったんだろう。

とりあえず、一発殴っとけば良かったんだろうか。

よし、次に会ったらそうしよう。

次に会ったら…


「…会いたくない…」


会いたくない。

きょーへいさんと顔を合わせるのが、

怖い…


「…あー、もう!だから嫌いなんだ、あの人!」


彼がどんな気持ちであんなことをしたのか、見当もつかない。

考えても考えても、空回りするばかりで。


「…っこの…ど天然バカウサギ野郎おぉおォ!!」


モヤモヤを枕に込めて、思いっきり投げる。

壁にぶつけるつもりだったのに、怒りで手元が狂い、枕の向かった先は…

窓。

しかも、全開。


「ぎゃあああぁ!」


枕は、弾丸の如く開けっ放しの窓から外に飛び出していった。

青空に白い枕のコントラストが、無駄にキレイ。


「うわッ!?」


下から、男の人の悲鳴。

この声は…


「このっ…光里いぃィ!何考えてんだてめぇ!」

「ご、ごめん拓麻ー!今取りに…!」

「いい、待ってろ!今すぐ殴りに行く!」

「嫌だ、来るなあぁ!」


道路と2階の部屋から大騒ぎしている私たちを、近所のおばさんが迷惑そうに見る。

あたふたしている内に、部屋の扉が開いて枕を顔面に投げ付けられた。


「痛いじゃん!」

「俺のが痛ぇよ!2階から落ちてきたんだぞ!」

「…直撃した?」

「した」

「すみませんでした」


深々と頭を下げると、拓麻は私のベッドに身体を投げ出した。

呆れたようなため息のオプション付きで。





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