着ぐるみカレシ。
ぐるみカレシ。

2. 葉山杏平に関する
 一考察。 [1/5]



「あーあ、杏平さん、かっこよかったなー」

「…………」

「アド、交換したかったなー」

「…………」


しつこい…


私は、英語の教科書を盾にすることで、百々の嫌味から身を守る。

そんな私の抵抗も虚しく百々の手が、教科書を取り上げた。


「ひーちゃん、酷い!」


せっかくの可愛い顔をしかめて、睨んでくる。

かれこれ3日間、この手の文句を言われ続けてきた私は、もう言い返す気力もない。


はぁ…




あの悪夢の日から、数日が経った。

百々はあれから、私にちくちく嫌味を連発してくる。

通算62回目の「杏平さん、かっこよかったな」とか、47回目の「アド交換したかったな」とか。

よっぽど、あの男が気に入ったらしい。

…私には、その魅力が全くわからないけど。


けど、悪夢の1日は、百々の嫌味なんかよりも、もっと切実な問題を連れてきていた。


「ねぇ、今日も行こうよ遊園地!」

「…昨日も一昨日もその前も行ったじゃん…」

「いっぱい行った方が、会える確率高くなるでしょ?」


しかめっつらから一転、にっこり笑う百々。

完璧に、恋する乙女の笑顔だ…


あの日から、百々はあの男のことが気になって仕方ないらしく。

姿を見ようと、そしてあわよくばアドレスをゲットしようと、毎日遊園地に足を運んでいる。

…そうすると、必然的に私もそれに付き合わされるわけで。

これが、もっぱらの今の私の悩みだ。


「…悪いけど、今日はパス」

「えっ!?なんで?」

「百々と違って、ウチは普通の中流家庭だから、毎日遊園地に行けるようなお小遣いはもらってないの!」


まったく、これだから
お金持ちのお嬢様は!


百々のパパは、大手企業のエリート。

しかも、“お父さん”より“パパ”が似合うような、格好いい人。

私のお父さんとは大違いだ。


「今日はバイト入れてあるから、遊園地はパスするよ」

「そっか…ゴメンね、私いつも自分のことばっかり…」


しゅんとする百々。

なんだか、もの凄く悪いことをした気がしてきて慌てて付け足す。


「あ、でも…またお金に余裕できたら付き合うから…」

「本当?やったぁ!ひーちゃん、大好きっ」


可愛い子は、変わり身が早い。

天使の笑顔で、私に抱き着く。


…言わなきゃ良かった…


私は重い身体を引きずって、学校をあとにした。





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