風が吹く場所に‐紫苑
□第一部[【続】](20/20)


華音もナツからようやく解放され、落ち着いたナツと、それを呆れた目で見ていたシンに今までの経緯を説明。

「──なるほど、俺は大宮 慎也。エイジとは幼なじみだ、よろしく」
シンは大らかな笑みで華音と握手を交わし、華音も「はい」と静かに頷く。

「橘 夏樹よ、記憶喪失ね・・・・大変だろうし手伝ってあげるわ」
ナツはシンの手をはたき落とし、華音と握手・・・・というかスキンシップ。

華音はそれに恥ずかしいような、困ってるような表情で応える。
でも、嫌がってはなさそうだから放っとくんだけどね。

「よし、なら華音の住所・・・・東区に行くんだよな。電車か?」

「うん、じゃあナツ、案内おねがいね」
「任せなさい」
さすがナツ、凛と言い放つ姿が様になる。

ナツはこの中央区に子供の頃に越してきた、その前に住んでいたのが東区。
華音の住所を見せたところ、どうやら昔住んでいた場所に近いから案内できるらしい。

俺は藤の丘東区〜から全く知らない名前だったので、正直大助かりだ。

「よかったね華音」
「あ、うん」

二人・・・・いや、三人に囲まれた華音は、初めて見たかもしれない、小さな花のような笑顔をこぼした。


車中。
切符を買ったり、乗る前にドタバタしたりと慌ただしく電車に乗り込んだ俺達は、適当な席に四人並んで一列に座る。

俺も例に漏れず、シン達と菓子を広げたりしながら。
約一時間は掛かるという、ちょい旅を四人で楽しんでいた。

華音も、最初は戸惑ったり、困ったり、俺を頼ってきたりするけど。
ナツとシンも華音にいつものように接してくれるから、微妙な空気は長くは続かなかった。

・・・・ちょっと、自分の子供が離れたみたいで寂しくも感じたけど。

「ねぇエイジ」
「あ・・・・うん、なに?」

意識が離れてた気がする。
だから返事も遅れてしまった。

「二人とも、良い人だね」
あまり表情の変わらない子だけど、無表情じゃないその表情は、柔らかく微笑んだ。

「もちろん、二人は一番の親友だから」
これは自信を持って言える。

・・・・おいナツにシン、そこで顔を赤くされたらさ、俺までハズいじゃん。

「ばか」
「ばかね」
シンの持ったポテチと。
ナツが持ったポッキーを俺の口に突っ込まれたら、もう反論しようがない。

黙ってろ、とか言いたいのか。

くそぅ、食ってやる。

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