世話焼き後輩とダメ先輩
熱血編

「…あー、今日も負けた負けたー!」
「先輩は何で負けたのに楽しそうなんすか…」
「そりゃまー、大人になると草野球なんてやれればそれで満足だからなー。…ああ、お前は勝たなきゃ意味がないんだったっけ?」
「…恥ずかしい話をいちいち掘り起こさないでください」
「恥ずかしかねぇだろ。俺は好きだぜ?あの台詞」
「…」

 それは、入部して一週間の一年坊主が、三年の先輩に対して言い放った言葉。

 彼らの野球部は本当に弱かった。弱過ぎて、練習に毎日来ていたのが四人しかいないという有様だった。
 三人の三年生は、ピッチャーのマイペースなスーさん。キャッチャーなのに頭を使うのが苦手なクマ。野球愛は人一倍あるがヘタレで本番に弱いセカンドの仙道充。
 そして、この弱小にも程がある部には似付かわしくない、高校生離れした守備力と選球眼を持つ、俊足巧打の一年生ショート、後藤要。

 三年生は一度も勝った事がなく、もう「野球さえ出来れば満足」という気分になっていた。
 後藤は、そんな情けない先輩達に、一週間でキレたのだった。

「…先輩。先輩達はやる気があるんですか?」
「や、やる気はあるよ…でも、どうせ俺ら弱いし…」
「そんな事はありません。俺が見る限り、三人ともそれなりの力はあるんですから。問題は、気持ちです。自信が足りない。勝ちたいって気持ちが足りない。自分達には無理だって、やる前から諦めてる」
「それは…」
「いいですか。勝利が全てとは言いません。そんな野球漫画のやられ役の名門校みたいな事は言いません。でも、勝たなきゃ意味がないんですよ。勝とうとしなきゃ野球じゃない。負けてもいいなら…いや、試合すらまともに出来ないこの状況を打破する気がないのなら、この部は今すぐキャッチボール部に改名するべきだ。野球部を名乗るなら、ルールに則って勝利を目指さなきゃ!」
「そ、それは…わかってるけど。でも」
「…勝てます。ちゃんとルールを把握している人間を九人集めてくれれば、このメンバーでも十分に」
「へ?」
「いいですか。一点も取られなければ、野球は負けません」
「そりゃそうだけど…」
「スーさんなら、九回まで十分に打たせて捕るピッチングが出来ます。スーさんが性格以外は凄いピッチャーだって事は、ここに居る全員が知ってる。そして内野に飛んできた球は、全部俺と仙道先輩が捕ります」
「え、えええ?」
「…いや…出来るかも」
「く、クマ!?」
「後藤の守備範囲とスーさんのコントロールなら、俺が配球をちゃんと勉強すれば、かなりの確率で内野ゴロが取れる。仙道だって、練習通りの力が出せれば十分上手い。後は他のメンバーの底上げをすれば、零点に抑えるのは難しくない、と思う」
「クマ…でも俺、自信ないよ」
「スーさんの自信。クマ先輩の配球。仙道先輩のヘタレ。それさえ何とかすれば…負けはない」
「えええ…」
「お前、完璧に俺を舐めてるだろ?…でも、後藤の言う通りだ。このままじゃ俺達、本当にキャッチボール部で終わっちまう。スーさんはそれでいいのかよ?」
「それは…良くないけど」
「俺も一回くらい勝ちてぇよ。勝って終わりてぇよ。その為には、俺達の他にもルールを知っててフライと送球を捕れる奴が必要だ」
「仙道…」
「あとは圧倒的な出塁率を誇る後藤を、俺と仙道が帰せれば一点くらい取れる…いや、必ず取ってやる。だから…スーさん。やってみないか」
「クマ…」
「スーさん。俺は、野球がしたい。みんなで勝利を目指す楽しさを、みんなで勝ち取った勝利の喜びをもう一度味わいたい。お願いします…自信を持ってください。スーさんなら出来る。一試合でもいい、勝つ事が出来れば…せめて勝てるかも知れないという気持ちになれる試合が出来れば、きっと練習に来てくれる人も出てくる筈です。そうすれば、勝てる確率はぐんと上がる!」
「…後藤」
「「「スーさん」」」
「わ…わかった。頑張ってみる…俺も、引退までに一回くらい勝ちたい。勝って終わりたい!」
「よしっ!」
「決まったな」
「まずは幽霊部員に声をかけて…」
「あの、試合に来てくれれば練習来なくてもいいって言って誘っちゃったんだけど…」
「んな事、知ったこっちゃありません。兎に角九人!そして練習試合を!」
「ぜってー、勝ってから引退すっぞ!」
「おうっ!」
「だ、大丈夫かなぁ…」


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