世話焼き後輩とダメ先輩
花火大会編

「ビールに焼そばにたこ焼き。おし、完璧だな!」
「…リンゴ飴は?」
「いらねーよ、そんな甘いもん」
「…(残念)」
「…つーかよ、毎度の事だが…何で俺はお前と花火見に来てるんだ?浴衣ギャルはどーしたっ!?」
「毎度の事ながら、誘った女の子は誰も来てくれなかったけど一人で見るのも寂しいので、唯一浴衣まで用意して来てくれる俺を」
「もういい、皆まで言うな…あと、お前、毎年浴衣替わってねぇ?確か去年はもうちょい薄い色だったような」
「母親が毎年新しいの縫って送ってくるんすよ。年に一回しか着ないのに…先輩も来年着たかったら言ってください。母親の趣味なんで、安くしときます」
「金取んのかよ」
「材料費だけっすよ。…ところで、格好良く浴衣着こなす男とかモテそうっすよね」
「!…そ、それって幾らくらいなんだ?」
「帰ったら訊いときます。…ああ、そろそろ行かないと、花火始まっちゃいますね」
「おぉ、急がねーと場所が…っと、あっ」
「!」

 人混みに押され、一瞬お互いの姿が見えなくなる。

「先輩!?」
「おわわわわ、ちょ、押すなコラ、むぐっ」
「先輩!」

 声を頼りに人の波を掻き分けていくと、仙道はフェンス際で身動きが取れなくなっていた。

「だ、大丈夫っすか?」
「大丈夫じゃねぇ、たこ焼き潰れたかも…って、うわっ、わっ」
「おわっ」
「!!」

 むぎゅ。

 また後ろから押され、後藤とフェンスに仙道が挟まれる。

「っ…!」

 か、身体が…密着して…まずいってこれは!

「うぐうぅぅ、潰れる、おいコラ後藤!」
「む、無理っすよ、動けない」
「ひょわぁっ、耳元で囁くなバカ!」
「先輩こそ声でかい…」
「おわっ、ちょ…な、何か当たって…」
「ううぅ、あ」
「お?」

 ようやく後ろからの圧力が弱まり、二人の身体が離れる。

「はー、はー…た、助かった…ちくしょー、何で後藤なんかと密着しなきゃなんねーんだ…どうせなら浴衣ギャルと…」
「…」
「後藤?何だよ、どっかぶつけたのか?」
「い、いや…」

 言えない、ちょっと興奮したなんて絶対言えない!

「ったく、何なんだよ今年は…あ?」
「ん?」

 …ひゅるるるるるる…どん!

「やっべ、始まっちゃったじゃねーか!さっさと行くぞ!」
「あ…先輩」
「あ?」

 …ぎゅ。

「…何、手ぇ握ってんだお前」
「だって先輩、こうしてないとまたはぐれるじゃないすか」
「ガキ扱いすんなよ、後輩のクセに!…ああもう、いいから行くぞ!」
「…はい!」

 花火の下、先輩に手を引かれて走る夏の夜。
 後藤はこっそり笑って、その手をぎゅっと握り締めた。

花火大会編
おわり



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