世話焼き後輩とダメ先輩
デーゲーム編

「あ、ビール二本くださーい!…ビールでいいっすよね?先輩」
「…おー」
「何で試合前から惨敗でもしたような顔してんすか…折角席取れたのに」
「あー、嬉しい嬉しい。嬉し過ぎて踊りだしたい気分だよ…隣に座ってんのがお前でさえなければな!」
「呼び出したの、先輩っすよ?」
「うっせぇ!日曜の昼に家でだらだらしてる知り合いなんててめぇしかいねぇんだよバカ!」
「…つまり、野球観戦デートに誘った女の子に手酷く振られたものの、余ったチケットを無駄にするのが惜しかったから、休みの日にいきなり呼び出しても来てくれる唯一の後輩である俺を…」
「あー聞こえない聞こえない、なぁんにも聞こえないっ!」
「…図星なんすね」
「っ…るせぇっ、野球の良さがわかんねぇ女なんざこっちから願い下げだっ!…ちくしょー…」
「野球っていうか、先輩が嫌いだったんじゃ…」
「あぁ?」
「…何でもないっす。ま、こういう呼び出しならいつでも歓迎っすから」
「歓迎すんな!今回だけだわ!」
「はいはい。…あ、ビールどうぞ」
「ん、ああ…」

 ぐびぐび。

「…ぷはー!…はー、やっぱビールだよ。ビールと野球さえあれば他には何もいらねぇ…」
「じゃ、気の利く後輩と弁当はいらないんすか?」

 にやにやしながら弁当を差し出す。
 悔しいのかちょっと赤くなって後輩を睨みながら、それを受け取る仙道。

「…バカ。お前が弁当用意すんのは当然だろ、後輩なんだから。気が利くとかお前が必要だとか、そういう問題じゃねぇんだよ。そういうもんなんだよ」
「つまり、俺は先輩の世話を焼くのが当たり前なわけっすか?」
「世話焼くとか言うな。俺はお前なんか居なくたって…い、いや…まあ…居たら居たで使ってやんねー事もないんだが…」
「そりゃ光栄っすね」
「ふ、ふん…」

 仙道は赤くなったまま後藤から目を逸らし、暫く二塁の辺りをじーっと睨み付けていたが、やがてぼそりと呟いた。

「…後で酒奢ってやる。それでチャラだかんな」
「楽しみにしてますよ。祝杯になるといいっすね」
「当ったり前だろーがこんにゃろー。全力で応援すっぞ!」
「言わずもがなっす」

 燃え上がる仙道、嬉しそうな後藤。

 それから約三時間、二人は仲良く(?)野球観戦デート(?)を楽しんだ。

 その後、近所の居酒屋で飲んだ勝利の美酒は、格別の味だったらしい。

デーゲーム編
おわり



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