世話焼き後輩とダメ先輩
敗者の夏編

 ガチャ…ぱたん。

「…おい後藤。見舞いに来てやったぞ」
「…」
「先輩無視かよ」
「…もう部活辞めたんでしょう」
「それでも先輩は先輩だろが。まだ辞めてねーし」
「…」
「ったくよぉ…何拗ねてやがんだ?どうせうちなんて毎年一回戦負け、最高でも三回戦だぞ。初っ端で負けたくらいでへこむなら、最初から私学でも行きゃあいいだろが」
「…だって…俺の所為じゃないっすか。俺がエラーしたから決勝点…」
「何だそりゃ。俺が暴投したから捕れなかったってはっきり言いやがれ」
「…まあ、確かにそれもありますけど、先輩が本番に弱いのはいつもの事なんで想定内っす」
「うわムカつく」
「いつもなら捕れてたんすよ。先輩の下っ手くそな送球でも、あれは余裕でアウトに出来てたんすよ!なのに」
「…つーかだな。あんま調子こくなよ、後藤」
「…?」
「さっきから聞いてたら何だ、まるでお前が怪我してなかったら勝ってたみたいに言うじゃねぇかよ」
「実際、そうでしょう。俺以外みんな下手だし」
「いちいちムカつく奴だな…まあいい、確かにお前以外はみんな下手だよ。俺だって本番弱いよ。だからな…お前一人が上手かったからって、勝てるわけじゃねぇんだよ」
「…」
「負けたのは、俺らが相手より総合力で劣ってたからだ。お前だけの責任じゃない。お前はただちょっと俺より野球が上手いってだけで、プロ行くようなレベルでもなけりゃ、弱小チームが甲子園行くような劇的過ぎるドラマを演じる主人公でもない。ただの一高校生だ。思い上がるんじゃねーぞ」
「…先輩」
「何だよ」
「…ひょっとして、励ましてくれてるんすか」
「はっ!?ば、バッカじゃねーの!?俺はただ、監督にお前の様子見て来いって言われて来てやったらお前が生意気に落ち込んでやがるから、勘違いすんなって言いたくなっただけだ!いいか、お前はさっさと立ち直って足治して、次に備えやがれっ!お前が居なきゃ、うちは本当にただの超弱小野球部なんだからな!」
「…さっきと言ってる事違いません?」
「うっせぇ!兎に角、野球部は任せたぞ!」
「はいはい…」

 そう言って後輩は、嬉しそうに笑っていた。

 後輩が野球部を辞めたのは、それからすぐ…あの試合で痛めた足が治る前の事だ。
 彼は決してその理由を語らなかったが、毎年夏が来ると眩しそうに高校野球の中継を眺めているという。

敗者の夏編
おわり



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