生きた記録
[嵐の前](1/8)
中学1年(2)
中学も約半年が過ぎ、夏休みに入りました。
その頃には中学でも、『大人しい子』から『不気味な子』に印象が変わっていたので、夏休みでも誰からも誘われません。
例え誘われても、義父が私の外出を許可してくれないので遊びに行く事は出来なかったと思いますけど。
夏休み中は塾、義父のお酒と夕御飯のおかずを買う時以外は外出を認められていませんでした。
その日も夕飯の買い物を終え、家で夕飯の準備を始めようかと思っていた時に
「ただいま」
と、玄関から義父の声がしました。
予定より何時間も早い帰宅なので、慌てて緊張しながら玄関に行くと、義父に
「出かけるぞ。準備しろ」
と、言われました。
『どこへ?』
当然そんな事は聞けません。
慌てて部屋に戻り着替えを済ませ玄関に戻ると、義父は既に待っていました。
『遅い!』
そう言って殴られる事を覚悟しましたが、何故かその日の義父は違う事を考えている様子。
しきりに時計を気にしています。
『誰かと待ち合わせかな?』
一瞬そんな考えが頭に浮かびましたが、私を連れていく必要がありません。
どこへ行くのか
何をされるのか
何もわからないまま、義父の運転で連れてこられた場所は、どこにでもあるような2階建てアパートの前でした。
「あの部屋をよく見てろ」
義父が2階の角の部屋を指差し言います。
意味はさっぱりわかりませんでしたが、言われるがまま角部屋の玄関をしばらく見ていると玄関のドアが開きました。
玄関から出てきたのは、派手な格好をした女。
距離的に、向こうからこちらの車内は見えなそうですが、こちらからは玄関の中までハッキリ見えます。
女は玄関の中にいる上半身裸の男と二言三言話しをしたあと、抱き着きキスをして出てきました。
鉄で出来たアパートの階段をカーンカーンとヒールの音を響かせて降りてきた女の顔は、よく知っている人の顔でした。
「お前の母親だ」
言われなくてもわかります。
「お前の母親は、お前を捨てたんだ。」
何も言えません。
でも、母の後ろ姿を見た時には何の感情もありませんでした。
ただ派手な女が歩いてるってだけ。
義父も母を追うでも無く、また車を発進させ家路に着きました。
ただ
「家の鍵変えるからな。あの雌豚がたまに忍び込んで金持ち出すから。」
と言われました。
「あの雌豚に
鍵貸せって言われても貸すなよ」
とも。
義父の命令は絶対です。
貸しません。
それにその時は、あの女の事より、隣にいる悪魔に見捨てられる事のほうに恐怖を感じました。
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