共生者
〇[序章](1/25)


切れ切れの呼吸を落ち着かせるよりも早く辺りを見渡した。
汗と血で目が霞む。
視点が定まらないため視界が上下に揺れ、平衡感覚を掴めない。

鼻に纏わりつくのは血と硝煙の臭いか、それとも焼けた肉の臭いか。いやどちらともだろう。

雑食生物の肉はとにかく不味い、そんなカルバニズムの冗談を以前戦友が語っていたのを思い出し、得心した。

確かに美味いのならばこんな悪臭はしないだろう、なんだかおかしくなり荒げる息に笑みを乗せた。

握力がかすかに蘇ってきた。握力で感じた先をみると、手元から滑り落ちそうになっている黒剣が血に濡れている。





顔をあげ、再度辺りを見渡してみると記憶にない世界が広がっていた。

『地獄』に来たのだと思った。

炎に包まれ、判別のつかない人型の炭が視界の隅々に散らばっていた。

炭の大きさは様々だった。大きい物から小さい物まで。

ただしそれ以上はわからない。いや、わかりたくもなかった。

ただあるのは今すぐ此処から離れたいという願望だけ。

しかしその願望を心の牙で無理矢理咬み砕き、折れた足を強引に前に進ませ、一歩を取る。先行した足に片方の足を寄せる。

そんな足取りで2、3メートル離れた所でバランスを崩し倒れた。





倒れたと同時に急激な眠気に襲われ、意識が遠のく。

先程撃たれた胸のあたりを触ってみると、血が湧き水のようにトクトク溢れてきていた。


駄目だ、まだアイツは生きている…

心の中で念じ、力を込めて立ち上がろうとしたが気持ちとは裏腹に体は言うことを聞かなかった。

無情にも止めと言わんばかりにしがみついていた最後の意識を遠慮なく刈り取っていったのは、遠くから聞こえる仲間の声だった。



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