ナノは地下水路にいた。
「チャエの情報によると、狩猟機関内で大きなトラブルがあったらしい。ハンターに捕獲されていたのかは未詳だが、超音波を操る獣人が狩猟機関の敷地内でハンターを次々と殺している。」
左耳の耳朶に、小さな赤いピアスをつけているナノ。
チャエから受け取った薬の効果か、抉れた瞳も体調も、ヒビの入った肋骨も治った。
なんでも、万能薬らしい。
怪しすぎたがチャエの言葉だから信じた。
「この混乱に乗じて、狩猟機関に奇襲をかけることにした。異論がある者はピアスを外せ。半数以上がピアスを外したら、考え直さないこともない。」
ナノの前には何人もの獣人がいた。
その全員が体のどこかしらに赤いピアスをつけている。
狩猟機関に対抗するためにつくられた、獣人たちの組織だ。
その組織に属する獣人がもれなく赤いピアスをつけていることから、レッドピアス隊と呼ばれている。
数十メートルおきにあるせいで、いくら松明の灯りがあるといっても、全員の顔が見えるわけではない。
だが少なくともその数、100人。
レッドピアス隊員の総人数は、軽く千は越えている。
その中で急な呼び掛けに応じるのは、暴れたいと思っている獣人、もしくはナノを尊敬し、服従心をもつ獣人。
すなわち、ここでピアスを外そうとする獣人はいない。
「異論がないので、話を進める。」
ナノは薄闇で舌舐めずりをした。
この烏合の衆をどう動かすかは、全て自分にかかっている。