東方夕刃録
◎[第十三話](1/3)
意見が対立すれば、やることは決まっていた。
その日の夜のことだった。
ドアの前にある気配。
それは毎日会っていたもので、今日一日は一度も会っていないもの。
「永琳か。何の用だ?」
「話があるわ。ちょっと外に出てちょうだい」
二人は鈴仙が起きないように小さな声で話すと、竹林の中を進んでいった。
「幻想卿から出ていきなさい」
「あの話を聞いたのか」
今日の不自然な行動の意味はわからないが、昨日の会話を聞いたことは夕霧にも理解できた。
「言わなかったか?やらないし、現実性は皆無だと」
「関係ないわね。姫様を殺せる力がある。それだけで十分に排除するに値するわ」
「では、断れば力ずくで、というわけか」
「ええ、今までの礼としてせめて殺さないでおいてあげるわ」
生きてるとも言えない状態にはするけど、と言った。
「断る」
夕霧は断言した。
「お前が輝夜を大事にするように、俺にも大事にするものがいる。少なくともそいつらがいる間は此処を去る気はない」
そう告げた。
「交渉決裂ね。力ずくでいくわ」
「黙ってやられるほどお人好しではないのでな。『髭切』」
――天丸「壺中の天地」
――喪符「八人将門」
一人を囮に夕霧七人がスペルから脱出する。
上下左右すべてを囲うように夕霧が向かっていく。
「技巧『久遠の檻』」
一人が永琳を中心に九本の斬撃を展開。
それに倣い計六十三本の斬撃が永琳に襲い掛かる。
「天呪『アポロ13』」
だが、分身全てが叩き潰され、同時に夕霧も吹き飛ばされる。
「チッ!」
舌打ちしながらも夕霧の体は光に包まれ、傷が回復した。
しかし、すでに引き絞られた弓。
飛んできた矢を頭を引くことで避けた。
「……」
その威力に声も出ない。
地面が抉れる、というレベルだ。
クレーターができている。
当たったら回復を余儀なくされるのはもちろん、擦るのも危険かもしれない。
永琳の攻撃は止まらない。
(遠距離じゃ話にならん)
「憑符『童子切』」
さも当然のように避けられるがそれでも体勢の崩れた永琳の矢の雨は一時的に止む。
その間に縮地法によって距離をつめる。
――奥義「彼岸に贈る華」
赤い八本の斬撃が永琳に向かう。
しかし、それは永琳の表情を変えるまでにもいたらない。
斬撃の内の一本を弓矢で砕き、できた隙間によってスペルを回避。
ここは霊夢戦での再現。
だが、今度は夕霧の攻撃が当たる。
「降華蹴!」
縮地法によって後ろに回った夕霧は永琳の脇腹に直撃させることに成功した。
スペルを発動する隙はなく、通常攻撃ではまともにダメージなど通らない。
そこでこの選択。
以前から訓練していた蹴りを美鈴監修の元、完成させたものだ。
美鈴程の威力はないが、スピードはお墨付き。
さすがの永琳も顔を歪めざるをえない。
これで被弾一ずつの五分と五分。
(分が悪いな)
とはいっても、こちらがあてたのは少し強い程度。
向こうはスペルだ。
加えて蓬莱の薬の回復がある。
こちらも回復はできるが、霊力消費するものであり、霊力は戦うための元だ。
長引けば長引くほどにこちらは不利。
「やるしかない、か」
考えるほどに不利が増えていく思考を切り替えるように、夕霧は呟いた。
戦闘において必要なのは思い切りの良さ。
思い切れないようになる思考は切り捨てるべきだ。
距離を離さないように切り合っていく。
相手は弓だ。
離さないほうが、やりやすいに決まっている。
だがその程度でどうにかなる相手でもない。
夕霧の袈裟切りを避けると接近、腰の捻りだけで軽いパンチを当てた。
決して強い打撃じゃない。
「む、」
思わず声を洩らす。
蹴を放とうと思った瞬間に膝から力が抜ける感覚がし、止まってしまう。
「どうやら、人間と似たり寄ったりな体の構造をしているみたいね」
「フッ!」
言葉を振り払うように刀で横に薙ぐが、がむしゃらに振られただけの攻撃が永琳に当たるはずもない。
「ここはどうかしら?」
ダンッと永琳が足を踏みしめる音がし、抜き手が夕霧の脇腹に突き刺さった。
「ぐ……」
それにより、夕霧は完全に動きが止まってしまった。
動くことのできない夕霧に対し、適正な距離をとりスペルが発動される。
――神脳「オモイカネブレイン」
迫りくる弾幕。
人間体は意志に反して動きやしない。
被弾は確実、そう思った夕霧は、一度刀に戻った。
そしてすぐに再構成。
目の前にはすでに広がっている弾幕。
しかし、夕霧は刀を鞘にしまった。
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