東方夕刃録
◎[第十話](1/4)
ある晴れた午後の昼下がり。
夕霧の朝は早い。
まだ日も上らぬ頃、同じ部屋で寝る鈴仙を起こさないようにそっと外に向かう。
竹林のなかの少し拓けた場所で刀を振る。
まだ暗い世界に赤い刀身が幾筋も閃を残し、怪しく幻想的に光を放つ。
そうしてしばらく続けていると、空が白みはじめる。
朝食の準備をはじめる合図だ。
永遠亭の台所に立つと、まずは大鍋に昆布を入れ、湯を沸かす。
沸くまでの間に味噌汁に入れる具を用意する。
今日は美味しそうな大根があるので、それを使おうと決めた。
短冊切りにし、他の具もそれに揃える。
「あとは何にするか?」
呟きながら、今ある食材を頭に浮かべていけば、それだけで残りのメニューは決定した。
味噌汁に味噌を入れる段階になれば、
「くわぁ〜」
「おはよう、鈴仙」
匂いに釣られた鈴仙が起きてくる。
「卵焼き」
「おう、作ってあるぞ」
全ての調理を終えて、料理をよそい始めた。
その頃になれば、段々と他の兎達も起きてきて、手伝いを頼む迄もなく手伝ってくれる。
配膳がちょうど終わった頃に、図ったように永琳と輝夜が登場し、いただきますと共に食事が始まるのだ。
食べ終われば、洗い物は兎達に任せ、先ずは掃除だ。
本来ならば洗濯が先だが、あいにく夕霧はさせてもらえない。
結果、次にやる掃除が先にくるのだ。
掃除とはいえ各部屋をまわって掃除するわけではない。
みんなの共同空間(居間や廊下など)の掃除だ。
己の部屋の掃除は己がするのが永遠亭らしい。
輝夜の部屋に限っては永琳がやっているらしいが。
永遠亭の廊下は長い。
ものすごい長い。
本当に長い。
バケツに水を汲み、雑巾を二、三枚用意し端っこから拭いていく。
だが、小学校の掃除のように雑巾を前に置き、押していくのではない。
端の壁と向かい合い、腰を下げ後ろに下がりながら目に沿って拭いていく。
大雑把なように見えて、案外几帳面なところも有ったりする。
たっぷり三時間以上かけて、廊下を全て拭き終えた。
薪割りはそんなに大変ではない。
ここに来ればちょうど鈴仙も手伝いに来てくれるからだ。
「刀で斬ったほうが早くない?」
「刀は薪を作るためのものではないぞ」
無駄話をしながらも、体は動かしておく。
そうしていれば、日も上りきった辺りには終わってしまうのだった。
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