あけおめ in 相沢家(37/37)
その後は特に何も問題なく、相沢家に戻った。
母親とばったり遭遇することもなかったが
やはりあの低脳男が言った言葉にはむずむずするものがある。
相手の男の娘とは一緒にいるのに
実の子へは新年の挨拶すら無いってか。
個人的にイライラが収まらないんですが。
様子を見るに、杞紗はいつもと変わらず気にしていない素振りだ。
しかし元よりこいつは自分の本心を取り繕うのが得意である。
あんな発言をされて傷ついていないわけが無い。
「・・・大トロ・・・おいしい・・・!」
・・・今はばあちゃんが出前を取ってくれた寿司に、蕩けそうなぐらい顔がほころんでるけど、
いやきっと傷ついてる。
絶対胸を痛めてる。
「こうきさん、食べないんですか?もしやそのウニ私にくれるとか!?」
「やらないしこれ俺のだからやめろ!大好物なの知ってるだろ!」
箸をのばそうとするんじゃない!!
慌ててウニの軍艦を口の中に放り込んだ。
やっぱあんま傷ついてないかも。
「ふうくん、玉子好きだよね。これあげる。」
「わーい!ありがとうキサちゃん!」
「えーなに、お前一番好きなネタ玉子なの?寿司なのに?」
「うっせー、かっぱ巻きも好きだ。」
「・・・・・・」
いや、だからそれも魚じゃないよね。
中身きゅうりだよね。
なに胸張ってんだよ。ドヤ顔できる内容じゃないから。きまった、みたいな雰囲気出さないでくれる?
とりあえず颯太の皿に玉子とかっぱ巻きを捧げてやった。
すると奴は満面の笑みでそれを食べた。
凄まじく安上がりなガキだ。
まぁ可愛いからいいんだけど。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「ご馳走様でした。とても美味しかったです。」
「あら、お口にあって良かったわぁ。」
ばあちゃんに頭を下げてお礼を言うと、
とぷとぷ、音を鳴らしながら煎茶を湯呑みに入れてくれる。
杞紗は叔母さんと洗い物。
颯太は俺の隣でテレビを見て、時たま足をぺちぺち叩きこれを見ろと催促。
はいはい見てる見てる。
「ふふっ、颯太と仲良くしてくれてありがとうねぇ。杞紗も安心してるでしょう。」
「いえいえ、これぐらいお安い御用ですよ。」
「・・・何だよその上から目線!ムカつく!!違うかんなばあちゃん!こいつがどうしてもっていうから、オレが相手してやってるだけなんだからな!」
「・・・はぁ・・・そうか颯太・・・そんなにこのお年玉がいらないか。しょうがない、じゃあこれは、「オレ今日すんげーオッサンと仲良くなって遊んでもらったんだ!!」
寝返るのが秒の速度で早かった。
何とも現金なガキだ。
金の力はこんな中学生さえも瞬時に変えてしまうのか、恐ろしい。
取り出したお年玉袋をキラキラした瞳で見つめるものだから、
苦笑しながらそれを渡してやった。
「ありがとう!」と大きな声で叫び早速中を確認している。
「諭吉だ!!」
こら声に出すな。
もう一度「オッサンまじありがとう。」そう切実にお礼を言ってきた。
おう、大事に使え。ちなみそれは杞紗からでもあるからな。
すると颯太はドタバタと台所に駆けていった。
杞紗にも御礼を言いに行ったのだろう。
そういう所はちゃんと礼儀がなっている。基本颯太はいい子だ。
「・・・本当にありがとう。」
「・・・俺は別に、大層なことはしてないんで。」
何度もお礼を言われると、恥ずかしい。
煎茶をズズズと飲みながら照れ隠ししていると、
ばあちゃんはまたふふっと笑った。
「・・・牧田さん、風呂の用意ができたのでどうぞ。」
「え、いや俺より駿くんが先に、」
「俺は最後でいいんです。」
「・・・けど、」
「いいんですよぉ昂樹さん。先に入ってください。」
「・・・・・・では、お言葉に甘えて。」
断り続けるのも逆に失礼だと思い、最後には頷いた。
しかしやはり・・・俺だけ一番風呂ってのも気まずい。
あ、そうだ。
「颯太、こっちこい。」
「え」
ガシリ、
台所にいる杞紗にまとわりついてたレッサーを回収。
頭を鷲掴みし、そのまま連行する。
何がなんだか分からない状態のやつを風呂場に連れて行ってひっぺがす。
「ぎゃーー!!」
うっせ、叫び声あげるなよ。
腹割って話し合った仲だろ俺ら。
今度は裸の付き合いでもしようぜ。
p.352
← →
➣栞
⇒作品レビュー
⇒モバスペBook
←