あの日の僕にさよならを…
§[その狼、歓喜](1/10)
貴女の恋に囁きましょう…
「おい…具合でも悪いのかよ……大丈夫か?」


箸を持ったまま放心している涼に、原田が心配そうに覗き込んだ。


…どうしたんだ、あいつ…

昼間、あちこち総司に引っ張り回されたみてぇだが…

「涼…部屋で休むか?」


尚も心配して気遣う原田だったが、涼は全く反応しない。。


そんな涼を伺いながら、斎藤が複雑そうな表情で俺を見た。


…なんだ?


「涼、大丈夫?…俺、ついて行こうか?」


そう言って肩に手を置く平助を、涼はボンヤリ見つめると、
「あ…へーちゃん…これ食べていーよ…僕、もういいや…ごちそうさま…」


ふらふら立ち上がり、そのまま広間を出て行ってしまった。。


「…副長。」


斎藤が目で、後を追いかけろ…と訴えてくるんだが。

…おまえ、何か知ってるだろ?


「おい…待ちやがれ。」


なるべく優しくしたつもりが、どうしても低い声音になっちまう…


「土方さん…御飯、残しちゃってごめんなさい。」


「…別に怒って呼んだんじゃねぇよ。どうした?元気ねぇな。疲れたか?」


そうじゃないけど…と歯切れの悪い返事をして、涼は目を伏せた。


「俺にも話せねぇか?…」

だって、絶対笑うもん…

「聞いてみなきゃわかんねぇだろうが…」


僕、今夜は斎藤さんトコで寝たい…
土方さんから頼んでおいてくれる?…
沖田さんには内緒でね…


そう言って、ふらふら歩き出した涼に俺は焦って、
「おい、何処行く気なんだよ…」


「ちょっと庭でも歩いてくる…心配しないでね…」


まるでそのまま闇に溶け込んでしまうかのように、
茶色い髪が遠ざかって行った…


斎藤…あいつ、何か知ってるよな確実に…


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