初恋、発恋中

○事情(1/6)







学童について、俺は学ラン下に着ていたパーカーのフードを被った。

コンコン

お迎え用入り口の窓の扉を叩く。

いつもこの瞬間は若干緊張するんだよな。新しい先生が入ってたりしたら…

俺、絶対怪しまれるし。

「はーい」

ポニーテールの若い女の先生がヒョコッと顔を出して俺の姿を確認してくる。

「ちわ。弟、迎えに来ました」

「真司君のお兄ちゃん、こんばんは。真司くーん。お迎えよ〜」

先生が真司を部屋に呼びに行くのをホッと息をつきながら見送る。

面倒なことにならなくてよかった。

「あれ、絵?」

「え?あぁ、うん。みたいだな」

保護者が児童を迎えにきた時に解放されている玄関。そこの壁にズラリと飾られているのは、生徒たちの絵だと思う。

俺はいつもこの入り口までしか入らないから、真司の絵すら見たことはないけど。

「ちょっと見ていくか」

「はっ?ちょ、おい!」

ズカズカと入っていく高谷の腕を後ろからつかみ制しようとしたが、屈辱的なことに力の差で引きずられてしまった。

「へぇ、上手いもんだな」

「今の子は色々進んでんだって」

「お前が言うと変な意味にしか聞こえないな。お、絵のテーマは将来の夢か」

失礼すぎるだろ、と言おうと思ったけど反論の余地がないから黙る。

かわりに、真司の絵を探す事にした。

藍真司

藍真司…真司…

あ、あった。

画用紙には人間が2人隣に並んでいる。手を繋いでいて、1人はこれ…スカート?

これが、真司の将来の夢?

「高谷」

「なに」

向かい側の壁に飾られていた絵を眺めていた高谷の腕を軽く引っ張って呼ぶ。

「これ、将来の夢なんだと思う?」

「これは…なんだ?」

わかんねぇよな、流石に。

ダダダダダダッ

ん?

「にーちゃーん!!」

「うぉっ」

ドンッと身体が揺れるほどの衝撃。

こいつの抱擁(タックル)は毎度のことながら凄い。無駄に身長あるから余計に。

「にーちゃん!ただいま!」

「おかえり。楽しかった?」

「うん!!楽しかった!!けど、にーちゃんに会いたかった!」

そっかと一言返し、俺に抱き着いたままの真司の背中をポンポンと叩いてやる。

「お前の弟可愛いな、似てない」

「あ?俺は格好良いって?ありがと」

高谷が話しかけてきたから即答で返してやる。そしたら、フッと笑われた。

「笑うなよ」

「は?なんで」

「なんとなく」

高谷が笑うと心臓がなんかやばくなる。

うまく説明できないけど、なんか、ぐわぁーっ!!!って感じに。

って、ん?

クイと手を引かれて視線を向ければ、真司が高谷のことをジーッと凝視していた。

「にーちゃん、友達?」

「あー…」

答えにくい問いに言葉を濁す。

友達…ではないよな。

知り合ったばかりだし、こいつも俺の事なんか友達だと思ってないだろ。

「今日、子供たちが学校で将来の夢を描いてきたので飾っているんですよ」

「そうみたいっスね。真司の絵これ?」

返事に迷っていたら先生が声をかけてきた。

タイミングが良い。真司の質問に答えを返すことなく、先生との会話に逃げる。

「結婚式なんだよね、真司くん。好きな人と結婚してずっと一緒にいるって。でも相手は教えてくれなくて」

ふーん。

結婚、な。

「真司、教えろよ。好きな女の子できたの?何ちゃん?そのこ可愛い?」

真司の好きな子の話なんて聞いたことがなかった。見た目の割に甘えん坊な弟の成長を知り、ニヤニヤしながら聞いてやる。








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