初恋、発恋中
○遠巻き(1/6)
体育館の中に入ったら、そこら中で部員が座り込んだり倒れこんだりしていた。
あー…見てる見てる。
律儀にも俺が通る場所を予測してコソコソ逃げまわってるし。
疲れてんならへたりこんどけよ。
座ってる奴いきなり掴みあげて殴ったり蹴ったりするわけねーじゃん。アホか。
チラとでもみたら悲鳴あげて泡吹きそうだから、あえて視線は交えないでおく。俺ってなんていい人なんでしょうか。
(あいつら、どこだろ)
あ、いた。2人を遠くに見つけた俺はピタとその場に立ち止まる。水澄たちはそんなに探さなくてもすぐに見つかった。
練習に疲れ座り込んでる部員の中で、唯一2人立ったまま向い合い何か喋ってる。
あの2人…バスケ部の中でも特にでかいんだな。男子高校生といえ、あんだけ背あるのは珍しいし当たり前だけど目立つ。
近くに寄りづらいな。
名前呼ぶか。…あー、えーと…
「水澄ー?」
「おー!こっちこっち!」
よかった、一瞬名前ど忘れしてた。
つーか…俺が水澄の名前呼んだだけで周りの奴らビクビクしてんなって。
いい加減ウザい。
2人のところまで歩いて行って、重い方のボトルを水澄に手渡す。
「水澄」
「ん、サンキュー!」
「おう」
お礼を言う水澄に軽く返事を返し、今度は康樹に無言でボトルを差し出した。
流石に下の名前では呼びにくい。
同級生とはいえほぼ初対面だしな。
「遅い。休憩時間言ったよな?」
「は?」
ボトルを受け取らず文句を言ったソイツに、ビシッと体育館中の空気が凍った。
「おい、康…」
「5分後に休憩って言わなかったか?」
「だから時間通り持ってきてやったじゃん」
「外で誰かと話してたな。そんな暇があるなら、もっと早く戻ってこれるだろ」
は、なんだそれ。
「よく見てるじゃん、俺の事。監視?お前、練習サボってたんじゃねーの?」
「なに…」
「俺は、お前らが少しでも冷たい水を飲めるようにって…そう考えたんだよ」
無駄だったみたいだけどな?
俺が考え過ぎたってんなら謝ります。ハイハイごめんなさい。すみませんでした。
こんなことなら何も考えずにぬっるい水をサッサと持ってこればよかった。
「はーぁ…馬鹿らし」
俺の言葉に何も返さなかったけど、僅かに驚いたように目を見開いた黒髪デカブツ。
考えなしだと思ったって顔してんな。
「藍くん…」
「ま、別にいーけど。とりあえず受け取ってくんね?腕疲れる」
そう言いながら不意打ちでボトルを投げる。が、黒髪は一発でキャッチした。
あーあ…ナイスキャッチ。
本当ムカツクなー。わざと取りにくいとこ狙って投げたのに台無しじゃねーか。
「水澄、他にすることは?」
「いや、いいよ。なんかごめんな。座って練習風景でも見てて」
「俺に見られてたら、あいつら萎縮して動けなくなんじゃねぇの?」
俺が体育館を見回して言ったら、水澄がハハと大きい笑い声を上げた。
「それも練習。怖いやつがいるから試合出来ませんなんて事にならねぇようにさ」
冗談めかして言う水澄に俺も軽く笑う。
「んー…俺、やっぱ外いるわ。他の奴らはすげービビるし、そっちのデカいのは俺の事気にくわないみたいだし」
水澄は俺がいてもいいっていうけど、俺がいるとよくねぇ奴らのが多いんだよ。
それに、俺もここに居たくないしな。
「藍くん!」
「外にいる。練習終わったら声かけて」
引きとめようとした水澄にヒラと手をふって俺は向きを変えた。
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