平成ラプソディー
[もう一つの血筋](1/4)


 東京に帰る前日、旅行のチケットを渡すために実家に寄った。

「七海ちゃん久しぶり」

 従姉妹の美佳(ミカ)ちゃんが女の子を膝に乗せて笑顔で声をかけてきた。
 
 祖母のお葬式以来の再会だった。

 私は彼女の結婚式に仕事で行けなかった。

 五年の歳月の間に結婚して母になり、少しふっくらとした身体は親になった貫禄がでている。確か三つは下のはずだが。

「美佳ちゃん、結婚してこの近くに住むようになってから時々遊びに来てくれてんのや」

 お茶をいれるために台所に立っていた母が、お茶と菓子が乗ったお盆を持ちながら言った。

 彼女は、何人かいる従姉妹の内の一人だ。私は一人っ子だったから小さい頃は二人で遊んだ記憶がある。

「美佳ちゃん、その子何て言う名前やったっけ?」

「千沙(チサ)って言うねん。オムツがなかなか取れへんさかい毎日大変や。おばさんとこきて、気晴らしさせてもらってるんよ」

「子育てって大変らしいね。友達のところも同じこと言ってたなぁ。うちのお母さんも嬉しいから、遠慮しないで遊びに来てね」

「ありがとう。千沙もなついてるし助かるんよ」

 美佳ちゃんから母の膝に乗り換えてはしゃいでいる千沙ちゃん。

 楽しそうにあやしている母を見ていると心の奥が痛んだ。私の子供だったら母はもっと明るい笑顔をしていたのだろう。

「七海ちゃん、明日東京に戻るんやて?」

「そう。今日はお母さんに渡すものがあって……」

「旅行のチケットやろ?おばさん良かったなぁ。うちなんか、そんなことしてあげる余裕ないわ。逆にお金出してもらうことのほうが多いわぁ」

 その言葉に対しては苦笑いするしかなかった。

「あ、話変わるけど、おばあちゃんが公家の血筋やった話覚えてるやろ?」

「え、ええ……まぁ」

 母と目線があってお互い『この話はしたくない』という顔になってしまった。

「あのとき、私もおじさんと同じこと思たんよ」と美佳ちゃんが言った。

「えっ?」私の口からはすっとんきょうな声が出た。






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