偽装恋愛
■[cut.【12】](1/39)
ピチ、ピチ、チュン、チュン……
絵に描いた、と言うよりも。
まさしく文字に書いたような、由緒正しい日本の朝と言える、スズメたちのさえずり。
その可愛らしくも賑やかな声に誘われて、私はやっと観念したように、モソモソと布団から顔を出した。
ここは、ロケ先の別荘の……私に割り当てられた、一室。
明らかに、寝不足でむくんだマブタを擦りつつ、私はボンヤリと窓の外を見上げる。
こんな時でも平等に訪れる朝が、今はちょっぴり恨めしい。
人の気も知らないで、一昨日の嵐がウソだったかのように、晴れ渡る青空へケチを付けたい気分だった。
昨日、あの後――。
柴崎さんの病室から逃げ出した私は、待ってくれていた三崎さんと合流し、そのままここに戻ってきたのだ。
心配をかけてしまった人たちに、一通りの謝罪をして。
それ切り、この部屋に引き篭もった挙句、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
「この天気なら、撮影できそう……かも」
視界には入るものの、その光景が脳を素通りしそうになって、私はあえて口に出して呟いてみる。
うん、この天気なら……。
ただし、私の寝不足な顔的には、かなり厳しい状況である事に、変わりはなかった。
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