偽装恋愛
■[cut.【07】](1/17)







その後の私の演技は散々な物だった。


……あくまで、私にとっては。


「いいね、朋恵ちゃん! 恋人と幼馴染との間で揺れ動く気持ち、上手く表現出来てるじゃないか!」

「は、はぁ……どうも」


私は絶賛してくれる監督からさり気なく目を逸らし、小さな溜息を一つ吐く。

ふとした瞬間に思い出すのは、翼くんのこと。

好きと言う気持ち一つで、きっかけさえあれば、人は良くも悪くも変わってしまうのだろう。


私を好きだから、何も伝えず離れて行った翼くんと。

私が好きだから、無理にでも手に入れようとした翼くん。


まだ恋を知らない私には、その辛さを計り知る事は出来ないけれど。

ただ何故か、あんなヒドイ事をされたのに、私は翼くんを嫌いになんてなれなかった。


そして……それ以上に気になるのは、柴崎さんのこと。


演技だと分かっているのに、柴崎さん以外の人に触れさせてしまった事に、ひどく罪の意識を感じてしまう。

カメラが回っている時以外は、目を合わせる事すら出来なかったのだ。


「はぁ……」


思わず口を突いて出る、二度目の溜息。

すると、どうやらそれを聞きとがめたらしい監督が、からかうように声を潜めて耳打ちをしてきた。


「ひょっとして恋でもしてるのかい? 最近、見違えるくらい演技に艶が出てきたけど」

「ち、違います! 演技の勉強をしているだけですから!」


何を慌てているのか、ついつい裏返る私の声。

咄嗟に、視線の先に捕らえていた柴崎さんから目を逸らす。

何だか、必死で隠していた0点のテストが見つかってしまった気分だった。


0点なんて、取った事ないけど。

でも実は、3点ならあるけど……!


私は妙な気まずさを感じつつも、必死ですました表情を取り繕って。


「……つ、次のシーンの準備してきます!」


監督に一礼してから、逃げるように撮影所の隅へと足を向けた。




 
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