偽装恋愛
■[cut.【05】](1/16)







私が、かなり前向きに決意を新たにした……その翌日。



とても珍しい事に、私のNG以外の理由で撮影はすっかり中断されてしまっていた。


「タケル君、翼君、二人ともいいよ! 台本からはかなり反れてしまってるけど、このシーンは今ので行こう!!」


ヒロインの恋人役の柴崎さんと、その恋敵役である翼君。

その二人が言い争うシーンで、何故か台本の存在を真っ向から否定してしまうような、アドリブ合戦が始まったのだ。

普通なら、監督他・スタッフの皆に呆れられても仕方のないところではある。


ところが。


「ここでのやり取りは次のシーンにも響くから、台本の手直しが必要だな……。ちょっと30分ほど休憩を挟もうか。おーい、誰か脚本家を呼んでくれ!!」


二人の並外れた演技力と魅力のせいで、台本通りのものよりも素晴らしい出来だと、監督が張り切ってしまったのだった。


急に降って沸いた、台本書き直しという事態。


慌てて監督の傍へ駆け寄っていく脚本家さんを見つめながら、私も人事ではないと真っ青になる。


「み、三崎さん……私ちょっと、楽屋で役作りをしてきてもいいですか?!」

「うん、そうだね。近いし、楽屋で待ってようか」


台本にどこまで手が加えられるかは分からないけれど、じっとしてなんていられなかった。

今までの役なら、セリフが少し変わったぐらいで、ここまで動揺はしなかっただろう。

でも今の私の演技では、必死で詰め込んだ引き出しをスルーされ、空っぽの引き出しを無理矢理抉じ開けられてしまうような物だ。



――し、柴崎さんのバカー!!



私はアドリブを仕掛けた柴崎さんに恨みがましい視線を向け。

ついでに、それに乗った翼くんにも哀愁漂う笑顔を残してから、三崎さんと一緒に楽屋へと向かったのだった。




 
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