偽装恋愛
■[cut.【14】](1/29)
二週間に渡った、島での撮影も何とか終えて。
残りはスタジオや近隣の現場で、それぞれ個別に撮れば良いシーンだけになった。
柴崎さんはあの後……当然の事ながら、病院へと強制収容されたらしい。
怪我が完治するのを待って、彼が出るシーンの撮影を再開するのだ、とも。
そしてその分、私の方に撮影時間を割く形になり、こちらはすでに出演シーンをほぼ撮り終えてしまっている。
このまま順調に行けば、あと2、3日で私もお役御免と言ったところだろうか。
そんなどこか物悲しさの漂う、一人っきりの楽屋。
「うーん……。これもボツ!」
私は休憩時間を利用して、一生懸命に綴っていた手紙をクシャクシャに丸め、ゴミ箱へと思い切り放り投げた。
先ほどから、何度も書いては捨てての繰り返し。
ちょっぴり照れくさいけれど、入院中の柴崎さんに宛てた手紙である。
ただし、その内容はラブレターのような色っぽい物とは、ずいぶんとかけ離れていた。
「あー、うー……」
自分でも、一体何を伝えたいのかさっぱり分からない。
考え込めば考え込むほど、意識しないようにしていた何かが邪魔をする。
かと言って、一瞬でも気を抜けば――。
柴崎さんが最後に残したあの言葉が、グルグルと頭の中を駆け巡るのだ。
『これでやっと、恋人ごっこも終わりだな』
恋人ごっこも、終わり。
最初から分かっていた事なのに、その一言は私の胸にポッカリと大きな穴を開けてしまった。
今さら、本当に好きになりましたなんて、言えるはずもない。
分かってる。
分かっては、いる。
だから、せめてお詫びとお礼くらいは、ちゃんと伝えたかった。
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