シロ王子クロ王子
[とある色の、とある想い](1/4)

 ののがいなくなったこの場所で、溜め込んでいた息を静かに吐き出した。


 さっきまで手を伸ばせば届く距離にいたのに。今は、どんなに手を伸ばしても目の前には誰もいない。


 今頃ののと律は――そう考えるだけで泣きたくなる。


 『天間君ってまだ七緒さんのこと好きなの?』


 頭に響くその声。


 ――もう忘れた。あいつへの気持ちなんて忘れたんだよ。


 『好きじゃないのならあたしと付き合ってよ。絶対にあたしのこと好きにならせてみせる』


 ――無理だ。ののへの気持ちを忘れたとしても、お前に気持ちが向くことはない。


 『やってみなくちゃ分からないじゃない』


 ――分かる。お前がののを超えることなんて無理だ。


 『形だけでいいの。今は天間君にその気がなくても未来はどうなるか分からないでしょ。あたしと付き合っているって噂になれば天間君だって嫌でも意識する』


 ――俺はもう好きでもない奴と付き合うのはやめたんだ。


 『あたし、七緒さんになるよ。あたしを七緒さんだと思っていいよ』


 馬鹿か、俺は。そんな口車に乗る俺は愚かだ。


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