[とある想いの、とある色](1/7) 俺の過去は千広しか知らない。いや、千広さえも知らない過去もある。 ――そう、俺の独断で決めた過ちと後ろめたい気持ち。 「初めまして、ユリといいます」 ユリと初めて会ったのは、俺が中学三年生の秋。 ユリは、小さなピアノのコンクールで、俺の演奏を聴いて感動したと言った。 元々コンクール向きではなかった自分の演奏は、当然良い成績を残せるわけもなく。けれど、毎回コンクールに出ている理由は、姉貴達が勝手にエントリーするからであって、自分からコンクールに出ようなんて思ったことはなかった。 コンクールでは正確さを求められる。間違いは許されない。姉貴達曰く、俺の演奏は楽譜通りではないらしい。ミスをしない自信はあるが、それが楽譜通りに弾けているかとなると別なのだ。 コンクールの審査員の辛辣な評価にももう慣れた。 そんな時、俺の前にユリが現れて、楽譜通りではない俺の演奏に感動したと言ってくれた。 コンクールの結果に興味はないと言っても、そう言ってくれて少なからず嬉しかった。 そこまでは良かったのに。 ⇒作品レビュー ⇒モバスペBook [編集] *戻る* |