源氏物語
[明石](17/17)
そら当たり前やろなあ。
紫はんを一人で残してきとるわけやし、なんといっても若君はこんな所で生涯を終えるような人やない。
若君はもっと、これからもっと大きなお方になるんや。
「せやなあ…」
若君は呟く。
「明石は落ち着いてから向こうに呼び寄せればええか…」
「じゃあ…」
若君はふっと顔を綻ばせる。
「うん、お前たちにはここまで付いてきてもろて散々苦労をかけたし…惟光」
「はい」
「帰ろうか」
若君は満面の笑みを浮かべた。
俺も満面の笑みを浮かべる。
「はい!」
帰ろう、若君。
あの邸へ。
紫はんや、右近の待っているあの二条邸へ。
俺たちの家へ。
帰ろうや。
…その時、涼しさを含んだ風が俺たちの間を吹き抜けていった。
〈完〉
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