源氏物語
[須磨](3/29)





「分かったわ。じゃあまた」


紫はんはにっこり笑うと、手を振った。


その時の紫はんの顔…


なんや泣きそうな顔してた気いすんねんけど、気のせいやろか。


「…紫、大丈夫やろか」


部屋から出た途端、そう呟く若君。


俺は若君の一歩後ろを歩きながら答えた。


「大丈夫ですよ。若君かて紫はんなら大丈夫やと思うたから、家を任せていくんでしょう」


「せやな…紫なら大丈夫やな」


若君は自分に言い聞かせるように呟くと、「よっしゃ!」と叫んだ。


「明日っからいろんな人の所に行くで。光る君、さらに光る!!」


意味分からん…


まあなんか元気そうやし、いっか。


俺はやたらとやる気の若君を眺める。


不思議とどうなるか分からない、行く先の見えない旅に対する不安はなかった。


それどころか、何が起こるか分からないということに高揚感すら感じる。


…外では雪が降り始めていた。





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