源氏物語
[須磨](2/29)





そんな紫はんを見た若君は、大きく息を吐いた。


「お前は昔っから惟光が好きやなあ」


「当たり前でしょ。あなたとの結婚だって、惟光さんがいなかったら自殺してたわよ、あたし。きっと今頃お墓の中にいるわね」


紫はんはからからとかわいらしく笑うと、再び真剣な表情に戻った。


「…どうしても行くと言うの?」


若君は少し苦しそうな、切なげな表情をすると、小さく頷いた。


「そう…」


「二人の将来のためなんや。今は辛いやろうが、辛抱してくれ。すぐに戻ってくるから」


「本当に?」


「ほんまや。俺が嘘ついたことあったか?」


「かなり」


紫はんはそう言うと、少しだけ笑った。


若君もおかしそうに笑う。


…俺、完璧なるお邪魔虫やな。


俺は仲睦まじい二人を見て、微笑んだ。


一時期はどうなることかと思うたけど、まあ仲良うなってくれてほんまに良かったわ。


「…ほな、また書類やらなんやらを渡しに来るわな」


若君はそう言って立ち上がる。


俺もそれに合わせて立ち上がった。





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