源氏物語
[賢木](2/35)





「ったく…」


今は若君が半端なく大変な時やって口を酸っぱくして言うとるっちゅうに、なんやねんこれは。


俺は盛大なため息をつく。


俺はこいつらのお守りか?


「ええか、今は若君や。私事は後回し。そんなもんとりあえずどっかにぽいしとけ」


「ぽいっ」


「…なんや、今の」


俺はわけの分からないことを呟いた良清にそう聞く。


すると良清は首をすくめた。


「ぽいしとけって言うから…」


「それを擬音でわざわざ口に出したんか?ほんまこの口はべらべらべらべら…縫い付け足るぞ阿呆。今すぐ右近に頼んだろか。あいつ、顔に似合わず裁縫の腕はええからな。お前の口も、二度と開かんようにしたるっ」


「まあまあ…」


俺が良清の両頬を掴んでびーっと引っ張ると、今度は孝道が仲裁に入ってくれた。


俺は最後に両手で良清の頬をばしっと挟むと、自分の位置に戻る。


良清は「いっいだいっ!」と涙を流していた。


ふん。


ざまあみろ。





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