源氏物語
[紅葉賀](1/27)
「あー忙しいわあ」
若君はそう言いながら、ちっとも忙しくなさそうに脇息に片肘を付いた。
「どこが忙しいんですか、ほんま」
俺は軽く走りながら若君の前を通りすぎる。
俺の方が忙しいっちゅうの。
口先だけ忙しい忙しい言いよって…
俺と変われって話やで。
…もうすぐ朱雀院の行幸があるっちゅうことで、俺たちはばたばた走り回る毎日を過ごしていた。
あくまで忙しいのは俺たちだけ。
若君はのんびり外ではらはらとその葉を散らしている紅葉を眺めているだけである。
たまーに、行幸で舞う予定の青海波の練習なんかもしとるけど…
どおーでも良さそうにたらたら練習してはうだうだと寝転び、またちょっと練習しては若い女房にちょっかいを出している。
若君の練習時間と休憩時間の比率は、五対一。
つまり、ほとんどの時間はだらだらとしているのだ。
それに比べ俺たちは…
若君の衣装合わせ、小物の管理、なぜか俺たちに課せられた楽器の練習、牛車の掃除、馬の毛並み手入れなどなど。
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