源氏物語
[末摘花](1/35)





さてさて、若君が紫の君と出会うほんの少し前のこと。


ある日、俺と若君は、若君の部屋で何をするわけでもなくぼーっとしていた。


本当は俺みたいな従者がぼーっとなんてしとられへんのやけどな。


「…なあなあ」


若君が突然考え深そうにそう切り出した。


「なんでしょう」


「お前は荒れ果てた邸に一人住む美女ってどう思う?」


「………」


なんか…


こういう展開にも慣れてきてもうた。


俺は盛大なため息を一つつくと、若君に質問した。


「そういうお方がいらっしゃるんですね」


「えっ!?なんでわかるんや。お前は超能力者か」


若君は切れ長の目を丸くして驚いていたが、分からない方がどうかしている。


若君のことや。


聞いてくることといえばどうせ女のことか、美容のことかのどっちかしかあらへん。


「ちゃいます。でもそうなんですね?」


「…むふっ」


俺がそう質問すると、若君は奇妙なにやけ方をした。


気色悪……





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