源氏物語
[若紫](1/25)
──年が明けたある日。
若君はおこり病という、熱が出ては治って、熱が出ては治って、という何日かの間隔で起こる病にかかった。
「ごれみづ〜…」
「はいはい」
床に臥せって苦しそうに俺を呼ぶ若君。
俺はとりあえず若君に近寄った。
「俺はこのまんま死んでまうんやろなあ…惟光…お前の元で死ねるなんて夢みたいや…」
「そんなもんじゃ人間死にまへん」
熱で顔を赤くする若君に俺はぴしり、と言った。
「乳兄弟っちゅうのに…なんでそないに冷たいねん。もっと主人の体を労れ」
「そんだけようおしゃべりできるんでしたら、何も心配することはありまへんがな」
「なんちゅう乳兄弟や。あーあ…今頃六条の御息所(みやすどころ)や空蝉はどないしてんのやろ…」
俺は小さくため息をつく。
結局は女かい。
ほんま、若君が死ぬときは世の中の女がみいーんなおらんくなる時やわ。
たとえ火で焼かれようが、氷山の上に真っ裸でいようが、若者は死なへん。
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