源氏物語
[空蝉](1/8)





──小君はんがこの邸に来て数週間。


若君の機嫌は最高潮に達していた。


「空蝉に会いたいっ」


「まあしゃあないですわな。相手は人妻、もう諦めたらどないですか」


若君は小君をフル活用して空蝉はんに言い寄っているのだが、向こうからの反応は一切なし。


小君が手ぶらで戻ってくるたびに


「役立たずだね。主人のためにもっと頑張ろうっていう気にはならないのかい」


と小君を責め立てる。


可哀想なのは小君で、きっと空蝉はんからも責め立てられてるんやろ、いつもいつもしゅん、としょぼくれてしまう。


ほんま可哀想すぎるわ。


「ね、知ってるかい」


若君はある日、小君にこんなことを言い出した。


「昔、君のお姉さんと私は将来を誓い合った仲なんだよ」


「えっ!そうなんですか?」


目を見開いて驚く小君。


信じるな小君よ。


若君得意の嘘八百や。


まったく、若君も大人気ないで。


わざわざそないな嘘つかんでもええやないか。





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