hat trick

○[変化](1/9)





「ーーそれで、お前と出会った。」

話してる間、ケイはソファーで体操座りしてる私を後ろから抱き締めてた。

ケイの両足の間に、すっぽりおさまった体勢。

この状態で聞いて良かった。

聞いてる間、ケイの顔が見えなくてよかった。

ケイの両足があってよかった。おかげで支えられる事ができた。

『その、アキラって人はーー?』
「一家で引っ越した。」
『ーーそう。』

何を言えばいいか分からない。

でも一番聞きたいのはーー

『ケイにとって、私はサキさんの代わり?』

サキさんへの、罪滅ぼし?

「だから、最初に言ったろ。これ聞いてお前がどう考えるか想像つくから。」

《 分かった。先に言っとくけど、これ聞いてお前がどう思おうが、俺はお前が好きだから。》

でもーー

『ケイは、サキさんを助けれなかった事、後悔してるんでしょ?』

遠慮のない聞き方だったかな。
でも、上手い言葉が見つからない。

「ーーしてるよ。だから最初は、重ねてたと思う。
でも何でかな。そのうち違う感情がでてきた。大切にしてやりてぇなって。幸せにしてやりてぇな。って。」

『ーー。』

「でもそれを受け入れるかどうかはお前の自由だろ。俺に強制はできない。」

ケイの、私を抱く力が強くなる。

「ユキの気持ちが分かったんだよ。
結局、自信が無ぇんだ。
何がなんでもミズキと別れて俺と付き合え。とは言えない。
だからお前が俺でもいいや。って思えるようになるまで傍にいたい。
お前がいいなら。」

何でだろう。

ケイみたいな男の子になら、もっといい子がいっぱいいる。

私みたいに頑なに年上に拘らず、ケイを愛せる子が。

わざわざ面倒くさい私を選ばなくたって、他にもいっぱいいるのに。

何でケイはーーこんな私を好きになってくれて、献身的に待ってくれるのか。

それを考えて、それがケイの愛の大きさなんだ。って思う。


そこまで思ってもらえる私は、何て幸せなんだろう。

それなのに、まだ年上に拘り続ける私は、何て愚かなんだろう。

結局、私にも勇気がないんだ。

《やっぱり、男は年上でないと。若い男は子供っぽくて苛々する。》
鏡見ながらたくさんの化粧水を塗ってたお母さん。
《年上なんかと結婚するんじゃなかった。恥ずかしくて同僚にも会わせられない。》
若い女の人と浮気したお父さん。

私はあんな風にはなりたくないの。

『ね、』

膝の上に置かれてたケイの手を取る。

『私、多分ケイが好きなんだ。』

「ーー知ってる。」

『でも私はーー』
「分かってる。」

なんて、愛しいんだろう。




私たちはしばらくそのまま黙ってて、そのあと一緒にベッドに入った。

ケイを抱きながら眠るのは、これで2回目。

『サキさん、どんなお姉ちゃんだった?』

「ーーうるさかった。いつも怒ってた。」

『そう。』

少しの沈黙。

「ーーユキに、悪い事した。」

『え?』

「アイツがサキを好きだっつった時、もっと背中押してやればよかった。
そしたらアイツは後悔せずにすんだ。」

それはーー違うでしょ。

2年前は、なにもしないのが一番だと思ったんでしょ?

過去の自分を、そんなに責めないで。

『ケイ、私をサキさんの代わりにしてもいいよ。』

背中に、頬をあてる。

ーーいい匂い。


『私はケイに救われてるよ。サキさんの分も、私が助けられてる。』

だからどうか。

少しづつでいい。

後悔の気持ちが薄れますように。

『ね、ケイ?』
「ん、」
『キス、したい。』
「またかよ。俺病み上がり。」
『いいじゃん。ねぇ?』

肩を掴んで揺さぶったら、やっとケイはこっちを見てくれた。

しょうがねぇな。って顔。

『ね、今まで何人とした?』
「ーー聞いてどうすんだよ。」
『ーー落ち込む。』
「なら、聞くな。」
『やだ。聞きたい。』
「つか、いちいち覚えてねぇだろ。そんなの。」
『うわ、サイテー。これだからケイはーー』

私にしゃべらせたくない時、いつもケイはキスで黙らせる。



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