半熟タマゴ

1/39 漆黒




住宅街を過ぎて公園を境に、まるで異次元のような夜の街があった。


陽が足を踏み入れようとしているネオン街の通りの入口には、その証のように趣味の悪い深紅の大きなキャバクラの看板があった。



空を覆っているはずの暗闇さえ近寄れないほどにきらびやかな街……


思わず足がすくんだ。


それでも引き返すことはできない……そう思った。


振り向けば、もしかしたら章が自分を追いかけてくれているかもしれない。



そんな根拠のない淡い期待も抱いた。


天の邪鬼な感情を持て余しつつ、陽は小さな歩幅で深紅の看板をくぐった。



つい先程まで静まり返っていた公園までの通りが嘘のように、目の前の世界はざわめいていた。



少し震えてやり場に困った両手をポケットに突っ込でみる。




(あっ……)



陽は寒さを忘れていた理由に気付いた。


章の上着を着たままで、コンビニで買ってもらった弁当は章に持たせたままだった。






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