§12.きみは知らじな 1/16
〜拓海 Side〜
−…クミ…たくみ?
遠くから、誰かが俺の名前を呼んでいる
−−…ん、誰だよ
−…俺まだ、眠いんだ−
優しく髪に触れる手…
「拓海、起きて。このままじゃ風邪を引くわよ」
…やべっ!寝てた−…
ガバっと身を起こす
「ん?母さん、起きてて平気なの?」
病室に俺が来た時は、ぐっすりと眠っていた母はいつの間にか起きていたらしい
ベッドの横で資料を読んでいた俺は、ここ数日の疲労で眠っていたようだ
あの家庭教師の日、
母が救急搬送されてから
もう10日以上になる
すぐに行われた検査の数値が悪く即入院となった
週末に帰るはずの俺は、
主だった人達に連絡して
結局、夜中には実家に帰る羽目になり…
今日、母は検査の結果でやっと一般病棟へ移れたばかりなのだ
病状は一進一退を繰り返し、先の見えぬまま
ずっと張っていた、俺の緊張の糸も途切れてしまったのだろう
「平気よ。なんだかとっても気分がいいの…
きっとよく寝たのね」
やつれ果てた顔に不似合いなほど、表情はにこやか
…母さん、あなたはここ数日、時に死線をさ迷っていたんですが…
ふっ!しょうがない
こういう人だから…
入院する度、不安になる家族に母はいつも気丈に振る舞った
−本当に良かった−−
俺が小さく笑うと、母さんはまたにっこりと微笑んだ
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