邁進ランドにかける原液
[第4章](1/5)
今年のクリスマスも正月も僕にとってはなんの変哲も無い平日だった。
だけど悲しくなかった。
あの寒さに悲しみさえ奪われたんだ。
今年もひとりだ。
一人が始まる。
「考え事ですか?」
そうだ、僕にはおじいが居る。
昔とは違う。
「おじいは、いつもここに存在してる。おれと同じ星で生きてる。」
本当に毎日同じ家で生活しているのかな
朝食だって一緒に食べた
今だって夕食を食べ終えたところだ。
なのに
おじいは、他人なんだもんな
おじいは笑ってるのに
僕は笑ってたかな
なんで おんちゃんと過ごさなかったんだろう
過ごせなかった。
もうあの時から一年経って中学生になった今、
僕たちの関係は消滅した。
「いつもそばに居ますよ、ゆふねさん。」
そばに居るなんて簡単に言っちゃダメだよ、なんて説教じみたことを言いそうになった。
おかしいな、おじいが大好きなのに。
どうせ何処かに行ってしまう。
そしてもう二度と会えなくなる。
「ゴリラってね、考え事すると下痢になるんだって。むかし母さんが言ってた。人間みたいだよねって。……てことはさ、人が下痢になる時は考えすぎちゃったってことなのかな?」
おじいは首を傾げて笑った。
「そうかもしれませんね。」
ディレクションズとは同じ中学で未だに仲がいい、ニシヤは隣のクラスでおんちゃんも一緒みたいだ。ニシヤもおんちゃんとは話さなくなったらしい。
夕飯を食べ終え食器を洗おうと立ち上がる。
いつまでもおじいに頼ってないで自立しなきゃ
「いつもこんなに指先冷やしてたの?」
ごめんね
「ストーブで温めてましたから、なんてことないですよ。それよりゆふねさん、私がやりますよ。」
おじいは、なんでいつも
こんなに優しいんだ?
まだ僕を腫れ物として見ているのかな
「いい、これぐらいさせてくれ。」
「そうですか?じゃあ少し散歩に、」
「タバコ、ここで吸っていいよ。」
キッチンにある換気扇のスイッチを入れながら、おじいの顔を見たら驚いてた。もしかして喫煙者ってこと隠してたつもりなのかな?
「…いいんですか?」
「おれ前までタバコ嫌いだったの。おれが生まれる前親父が吸ってたって聞いてて。おじいちゃんも喫煙者で、おじいちゃんのこと嫌いじゃないけどタバコのニオイがまとわり付くのすげー嫌いで、」
「やっぱり外に」
おじいは俯いて言った。
ちょっと待ってろ
「けどさ、おじいが吸ってんの見たんだよ。最近も何回か見た。でも正直もうなんとも思わなかったんだよね。匂いつこうが風呂入りゃーいいし。だんだんさ、その匂い無きゃおれ生きてる気がしなくなって。誰だってこの世界に一人じゃ生きてる意味が無いんだよ。だから俺と生きて。長生きしてね。」
タバコの匂いが恋しくなるんだ
もっとさ
本のインクの匂いとか加齢臭とか
そんなんでもいいのかもしれない
長生きしてくれるならそっちの方がいい。
でもおじいが好きこのんで吸ってるタバコがアイデンティティーに見えてしまったんだ。
もはや
おじいが持ってる香水のひとつなんだ。
だからって調子乗って
ヘビースモーカーにはなるなよ?
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