邁進ランドにかける原液
[第1章](1/5)

深緑のカーディガンを羽織った可愛らしい初老は透き通る白髪のおヒゲを撫でた。

中はスーツで、ジャケットは着ていないがベストを着ていてビシッときまっている。

大きくて分厚い、そして重そうな絵本を閉じるとコホンッと咳払いの合図をする。

「ゆふねさん、これでは前作と内容が重複しているように思えます。このまま色恋ばかりの絵本を描いていていいのですか?もちろん極彩色の素敵なイラストではありますが、もっと様々な物語をお描きになられてみてはいかがでしょう。」

凹凸のある煌びやかな表紙を撫で下ろし、困ったように言った。おヒゲは綺麗に短く切りそろえられており、喋るたび揺れているのがまた可愛らしい。

ふふ、やっぱり
おじいはシュナウザーに似てる

やけに眩しいな

本の表紙は瞬き、ぼくの目を照らした。

ワインレッドでゴールドのフリンジをアクセントにしたカーテンは快晴の窓を覗かせている。

「そんなこと言うなら、おじいが描いてよ!大体ぼくはこの小さな体でそのストーリーを考えているんだよ?おじいは、それに慣れてしまったのかね。重複しているのだって分かっている。セリフや人格被りだって重々承知だ。」

おじいと呼ばれるその初老は
夜遅くまで働く両親の元に生まれた高原ゆふねの執事として雇われている。

「貴方の人生の鏡だ。ゆふねさんそのものではないかもしれない。でも、これらの作品は貴方にしか書けません。」

ぼくは冒頭にダメ出しを食らっていたのにも関わらず悪い気はしなかった。

ふーん、と幼さを剥き出しでピアノの椅子に腰かけた自分をなんだか格好悪く感じた。

ちなみにこのピアノを弾くのは僕ではなく、たまにおじいが弾いてくれるのだ。

絵本は現段階で7作できた。
しかし1作目は初めての作業が多く、ゆふねにとって とても自信作とは言えなかった。

そのあとは一生懸命、近所に住む好きな人を想って書いていた。

イチゴ農家の娘だ。

長さはミディアムで、ブラウンの柔らかそうな地毛が特徴的である。

色白なのだが、イチゴの食べ過ぎか頬はじんわりと赤く染まっていて可愛らしく、ぜひともミス・ストロベリーとお呼びしたい。

実のところ、
温田 深ていう純日本人の名前なんだ。

どっちも似合うけどね!

でも彼女はシンて呼ぶと怒るんだ。
シンちゃんでも怒る。

だからずっと、
おんちゃんて呼ばせられてる。


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