モブ側ラブストーリー
[『じゃない方』じゃない方](2/9)


扉を開けるとチリンチリン、と鈴の音。
そしたら、店員は当然パッとこっちを見るわけで、もちろん目が合うわけで。


お、おは、おはようございます」


あくまで平静を装って、いつものように挨拶をして、逃げるように更衣室へ入った。

ああ、ほんと気まずいんですけど。気まずさ100パーセントなんですけど。
ああ。

オルゴールか何だか知らないけど、眠れない時に聴く音楽のような、とりあえず睡眠欲を刺激するメロディ、それと袋のカサカサした音、たまに作業場のオーブンの音、それだけが店内に響く。

いつも通り黙々と仕事をして、いつも通り里山とは目を合わさないように、


目を合わさないように、と思っても、結局は意識してしまうようで。
後ろ姿とか、ボーッと見つめてしまって、ふと振り返った里山とはバッチリ目が合った。

う、わ。

今までなら簡単に逸らせた目が何故か逸らせない。
「こっち見んなブス」とかなんとか言ってくれ。そしたら私も、すみませんって謝って、自然に、目を逸らすことができる。


つい固まってしまった私を動かしたのは鈴の音。


っいらっしゃいま、せ……


反射的に開いた扉を見ると、ふわふわの、長い髪。


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