華麗なる殺人
4†[叫び](1/20)
誘拐されてからと言うもの、桃は怖い夢を見るようになった。
襲いかかる顔のない怪物に捕まらないように、暗い遊園地や廃墟を当て所もなくさまよい続ける。
目が覚めたら、彼女の命を脅かす怪物などいない──はずだった。
顔の見えない集団に拉致されている現実世界も、安堵や平穏とは程遠いものだった。
長かった髪は顎のラインにまで短くなっていた。
それは対価を支払い続けてきた証であり、生きるための処世術でもあった。
今まで当たり前のように口にしてきたパンや果物、ジュースにはお金ではない“対価”が生じる。
もし、髪がいよいよ“対価”としての価値を失ったとき、どうなってしまうのだろうか。
髪の毛以外に、対価として与えられるものは何一つない。
しかし、生きるためには食べなくてはいけない。
対価を払わないことは、餓死を意味する。
……あたし、どうなっちゃうの?
九歳の少女は泣きたい気持ちで頭を抱えた。
生きることがこんなにも恐ろしくて苦痛なことだとは思わなかった。
今日はギンが御用聞きにやって来た。
桃は食欲がなく、ボロボロになった毛布にくるまっていた。
「おう、珍しいじゃねぇか。食いしん坊のガキが何もいらねぇとか……。ダイエットか?」
ギンの嫌みにも言い返す余裕がなかった。
何だかすごく身体が怠い。
それに、少し熱があるような気がする。
「ハァ、ハァ……」
桃は呼吸を荒げながら、体育座りの姿勢からゆっくりと床に倒れ込んだ。
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