「だるい気持ち悪い喉痛い死ぬ」 「取り敢えず死にはしないから落ち着け」 うさぎの着ぐるみをパジャマにした花折は、黒髪を枕にし僕のベッドを占領して、苦しそうに呻いた。 数日前からだるいだるいと言っていたのだが、本日火曜日、とうとう発熱してしまった。測ってみると三十八度。低体温気味らしいから、なかなかの高熱だ。 氷枕みたいな気の効いたものはもちろんないから、濡らしたタオルとコンビニで買った冷却シートを装備させている。けれどやはり、心許ない。 ……と、言うか。花折も高熱を出したのは久しぶりらしく気が動転しているから、なんとかして安心させるのが先決だ。 「今日は祝日だから、医者も休みだしなあ……」 「うぅ……こんな劣悪な環境で死にたくない……」 「喉痛いなら黙ってろ」 っていうか、劣悪って言うな。 しかしまあ、病院も休みだし僕は看病なんか出来ないし、僕が一人で面倒みようと思ったらそれこそ劣悪な環境になりかねない。 誰かを助っ人に呼ぶのが一番手っ取り早くて良いんだろうが……野々田を呼ぶのはこいつが喜んでしまうから癪だな。しかし四ッ谷に看病が出来るのかは疑問だ。悠斗は論外だとしたら、あとは…… 「花折」 「うー……?」 声を掛けると、ぽわん、と焦点の合わない双眸が僕を捉えた。涙目で潤んだ瞳。朱の差した頬。僅かに乾いた唇…… って、何見てるんだ、僕。落ち着け。こいつの性別を思い出せ。恋愛シュミレーションゲームの看病イベントじゃないんだ。 ふう、と上澄みの空気を吐き出して、 「女医と看護婦、どっちが良い?」 「看護婦さん」 即答だった。 答えた瞬間に瞳がきらきら輝いたのは、涙目なだけが理由ではないだろう。 「よし。じゃあ、そのうち来ると思うから大人しく寝てろ」 「……まさか、お前ってオチじゃないよな……?」 「あー、ニアミスだな」 不安そうに眉を顰めた花折だったが、喋り疲れたのかすぐに目を閉じる。 それを確認してから、僕は電話を片手に一旦部屋を出た。 |