文化祭は結局つつがなく終了し、クラス企画の後片付けののちに解散した。 原田を含めて一部、打ち上げと称して夜遊びに行った者もいたけれど、ひ弱でもやしっこな僕と花折、それに野々田は大人しく帰路につく。 秋に突入したこの季節、所々に街灯があるとは言っても午後七時の空はもう暗い。ついさっきまで最高潮にあったテンションと対比されて、その闇は無情に重たかった。 「紗子ちゃんも大変だよねー……」 疲れたのか普段とは違ってふわふわした歩き方をして、花折は呟いた。 短パンにノースリーブの気合いが入った格好とは裏腹に、声には全くと言っていいほど覇気がない。つついたら倒れそうだ。 「ん? ああ、スタッフの片付けもあるんだっけ?」 「うん。校門のとこの装飾を崩したり、色んなところに飾ったポスターとか風船をもれなく回収するんだってさー」 くしゅんっ、小さくくしゃみした花折は小さな肩を抱いてあうあうと呻いた。 確かに今日は暑かったけれど、夕方にそんな肩を出した格好じゃ寒そうだ。 「まあ、サコも好きでやってるんだろうからそれで良いんだろう」 「みゅ。そっかー……あ、わたしこっちだから、また明日ね」 「あ、綴」 十字路を右に曲がりかけた花折を呼び止めて、野々田は背負っているカバンから何かを取り出した。白く瞬いた街灯の中、灰色のパーカーが浮かび上がる。眼鏡に街灯が反射して、その奥の表情は読み取れない。 何も言わずに、野々田はそれを花折の肩に掛けてやる。それはあまりにも自然で、僕も見惚れてしまうくらいに男前だ。 「あうー……ありがとう、いいんちょ」 「どういたしまして。それは貸すから、夜はちゃんと暖かくしないと」 「うん……」 じゃーね、と満面の笑みで手を振って、花折は先程までとは打って変わった軽い足取りで姿を消した。なるほどそうか、そんなに嬉しいか。 「女の子を家まで送ってやるくらいの甲斐性があってもいいと思うけどねえ、青少年?」 「あれは女の子に入らないだろ……柳ちゃんはちゃんと送ってあげるから、それで満足してくれ」 茶化すような野々田の言葉に軽くそう返す。それが面白かったのか、からからとどこぞのご隠居さまのように高らかな笑い声は、寒々とした住宅地の間に響いた。 それからくすくすと如何にも少女らしく笑いながら媚びるように僕の手を取り、当然のように指を絡ませる。冷え症なのだろうか、すらりと細い指先はぞくりと悪寒が走る程冷たかった。 「さあ、それじゃあ帰ろうじゃないか、青少年。君の寝室まで送ってくれるんだろう?」 「寝室も何も、僕の借りてるアパートはワンルームだからな……」 「そうだ。いっそわたしの家に泊まって行くのはどうだろう。料理を食べる人が増えれば、母親も喜ぶ」 「ああ……じゃ、お邪魔しようかな」 そう答えた途端、暗く明かりを奪う夜の中で、野々田の笑顔がぱっと華やいだ気がした。 |