柘榴、それからツインテイル


09 (1/2)
少しだけ甘い朝






 高校三年生、四月。

 クラス替えで心機一転した僕らは、受験に向けてどこかそわそわしながらも妙にのんびりと過ごしていた。


「おはよう、青少年。今日も相変わらず元気そうで、喜ばしい限りだ」

「おお、野々田。おはよう」


 春らしい薄桃色のフレームの眼鏡を掛けた彼女は、今年も不遜に笑う。僕が贈ったバッグチャームをきらりと揺らして、窓に近い自分の席に着いた……と思ったら、すぐに僕の近くに戻ってくる。

 僕の隣の席に断りもなく座り(本来そこに座るべき友人はまだ来ていない)、机に肘をついて掌に頬を載せる。


「野々田、あと十分で授業なんだが……」

「おねーさんがここにいるのは嫌かな?」

「……嫌じゃないから睨むのやめろ」


 拗ねたような声音とは裏腹に恨みがましい目で睨まれ、嘆息。こいつも相変わらず、僕にべったりだ。

 いや、それを許し、甘やかしている僕にも非があるのだろうけど。

「あの席は不快なんだよ、青少年」


 教室にいるのに珍しく、彼女は素に近いトーンでそう呟く。さらり、と流れるような動作で脚を組み、空いている方の手でコツコツコツと机をつつく。


「どうして原田が真後ろにいるんだろうね」

「それはほら、出席番号順だからだろ」


 「野々田」と「原田」の間に入る者が、今年はいなかったらしい(去年は花折がそこにいた)。
 偶然だし仕方ないことではあるが、本人は嫌で嫌で仕方がないようだ。







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