グッド騎士
[第三話『赤い瞳』](1/8)
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空に大きな月が浮かんでいる。
辺りはもう夜だ。
ウェインライト城の、王女の部屋。
寝台の上でマリアは枕を抱いて泣いていた。
その隣にはルシファーが横になって、彼女を見つめていた。
マリアは混乱していた。
何故、父が殺されなければならなかったのだろう?
何故、ウェインライトの人々の命が奪われたのか?
何故、隣にいる男は私を殺さないのか?
何故、自分には力がないのか?
力がなければ戦うことが出来ない。
逃げることも...。
「私は泣けとは言っていない。荷物をまとめろと言ったのだ」
ずっと黙っていたルシファーが、しびれを切らしたのか、口を開いた。
マリアはリュヌに眠らされ、目が覚めた時には自分の部屋にいた。
そして隣にいたルシファーに「万魔殿に連れて行くから荷物をまとめろ」と言われたのだった。
マリアは彼の顔を見た。
やはり誰かに似ている気がする。
ウェインライトの人々を殺した相手なのに、何故か憎む気持ちになれない。
何故か彼を恐ろしいと思えない。
「万魔殿って...?」
マリアはルシファーに尋ねてみた。
何をきいても怒られないような気がした。
「私の城だ。美しい城...きっと君も気に入る」
「どうして私を連れて行くの?」
「君は私と結婚するんだ」
マリアは困惑した。
初めて会ったはずの男に、何故こんなに熱い目で見つめられなければならないのか。
「私と結婚して何があるの? ウェインライトは滅んだも同然なのに」
ルシファーは笑った。
「政略結婚が全てだと思ってるのか? 私はただ、君を愛しているだけだ」
そう言って優しくマリアの頭を撫でる。
わからない...何故、彼は私を気に入っているのか?
「私は...あなたと会ったことがあるの?」
「ああ。遠い昔...。君が覚えていないのは仕方がない。思い出さなくてもいい。ただ、君は私の隣にいて、私を愛してくれればそれでいい」
次々と疑問が生まれた。
いつ会ったのか?
ここまで気に入られるようなことを自分はしたのだろうか?
納得が出来ない。
もし納得したら...この人と結婚する気になるのだろうか?
いや、そんなことより、シュヴァリエは?
シュヴァリエは今どうしているのだろう?
生きているのだろうか?
シエルは?
「シュヴァリエはどうなったの?」
マリアがそう聞くと、ルシファーの優しい笑顔が一瞬で消えた。
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