藤宮司様の華麗なる日々
[露皿](1/9)
 青いポリバケツをなぎ倒し、生ゴミが散らばる。

 表通りのネオンが届かない路地はじっとりと湿り気を帯び、酸味のある匂いが充満していた。生ゴミと配管から漏れた水の周りは滑りやすい。

「ち、くしょ」
「このクサレ×××が、二度とカナに手ェ出すんじゃねぇよ」
 柔らかい声が下品な言葉を発し、先の尖った革靴が転がっている男の腹にめり込み、蹴り上げられた。息も出来ない程の痛みに転がり、路地から表通りへ出た。

 道を歩いていたホストやホステス、客や観光客らが一瞬驚くが知らぬ振りして通り過ぎる。
 無様に転がる男に差し伸べられる手はない。男と周囲には明らかに隔たりがあった。

 軽い失望感を覚える間もなく男は靴音に目を見開く。本能が逃げろと体を動かす。

 喉奥から漏れたのは、悲鳴。男は這うように悲鳴を上げながら逃げて行った。

「つっまんねぇな! 根性ナシが! 二度とくんな!」

 舌を出し、中指を立てて逃げる男に罵声を浴びせると彼女は携帯電話を取り出しながらタクシーを呼び止め、乗り込んだ。

 道行く人々が立ち止まり、それを見送ってから歩き出す。

 ここは歌舞伎町。夜は始まったばかり。

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