犬 に な れ 。
[偽りのコトバ](1/6)



「真優(マヒロ)、痩せた?」

「あー、気づいた?
ダイエットしたのー!」

「前のが良かったな」

「はぁ?
何それ!サイテー」



なんかこいつ
かたいなーと思ったら、
そういうことだったのか。

前の方が柔らかくて
好きだったんだけどな。



「胸も小さくなってね?」

「まあそれは仕方ないよ。
犠牲は付き物でしょ」

「大きな犠牲だな」

「うるさい!」



なんてことは言ってるが、
俺はこいつの体が
かたくなろうと、
胸が小さくなろうと、
こいつのことは大好きだ。

菅原 真優 (スガワラ マヒロ)。

俺と同い年の中三で、
俺の大切な彼女。

でもこいつは
学校に行っていない。



「バイトのせいも
あるんだよねー」

「頑張りすぎだろお前。
いや、ヤりすぎ、か」

「仕方ないでしょー!
仕事内容が仕事内容なんだし」

「なら辞めちまえよ」

「やだ、
翔と遊ぶお金がなくなる」



そう、こいつは
中三なのに、
もう働いている。

それも風俗で。

真優のおじが
キャバクラの経営者で、
真優は年齢を偽ってむ
バイトをしている。

普通なら
他の店員にも、
客にもバレそうだが、
真優は見た目が
本当に大人っぽい。

中学生どころか、
化粧して髪も巻けば
高校生以上に見えて
当たり前なのだ。

身長もそこそこある。

だから、
バレることは
まずないだろう。



「俺と遊ぶ金を
他の男から毟り取るんだな。
なんか複雑だわ」

「仕方ないでしょ?
お父さんもお母さんも
どっか行っちゃったし」

「無理に金使うこと
ないんだぜ?」

「嫌!
人並みのデートくらいしたい」



キスをせがむ真優の顔は
本当に綺麗で、
俺にはもったいないと
つくづく思う。

優しくキスをしてやると、
嬉しそうに微笑んで
だいすき、って言うんだ。

端から見れば、
ただの
ヤンチャカップルだろう。

どうせ兄貴だって
そう思ってる。

ヤるだけの関係だと。

でも違うんだよ。

俺と真優は
本当に愛し合ってる。

ガキが抜かすなって
言われるだろうが、
俺と真優は、
ガチで結婚も考えている。

将来を見れるくらい、
お互いを信頼して
愛し合ってるんだよ。

そこらの
ヤンチャカップルなんかとは
訳が違うんだ。



「なあ真優、聞いてくれよ」

「んー?」

「兄貴にさ、
彼女できたんだぜ」

「えー、マジ?
あの真面目くんに?」

「しかも、兄貴から告ってて
それが超絶美人なの」

「嘘ー!
それで付き合ってんの?
すごいね、お兄ちゃん」



酒を飲んで
タバコを吸ってを
繰り返す真優。

おかげで真優の部屋は
タバコの臭いが
いつも充満している。



「なあ真優、
それ控えろよ」



俺は缶ビールを取り上げる。

真優は取り返そうと
必死に手を伸ばすが、
観念したのか、
側にあった
吸殻でいっぱいの灰皿で
タバコの火を消した。

そして、
怒り気味に言う。



「もう、
今タバコ高いんだよ?」

「癌になったら
どーすんだよ」

「そんなんなんないって。
ほら返して!」

「だめ」

「どうして!」



彼女はイライラし始め、
貧乏ゆすりをして
俺を睨み付ける。

だが、
俺は動じず、
そのビールを飲み干した。



「ちょ、
何すんの人の飲み物を!!」

「お前をこんなものなんかで
早く失うなんて嫌なんだよ」

「だから大丈夫だって。
心配しすぎだよ。
第一、自分もやってんじゃん」



彼女はおもむろに立ち上がり
小さく薄汚れた冷蔵庫から
缶ビールを取り出した。



「早死にするなら
そんときは一緒だってどーせ」

「お前ほどじゃねえよ」

「誰かな?
あたしの大事なビールとタバコ
全部使いきって爆睡したのは」

「知ーらね」

「はぁ?
ったくもー」



こんな俺たちの日常。

だが実際、
本当に心配してる。

真優は小学校低学年のとき
父親と母親を亡くした。

亡くしたというより、
ふたりは突然
姿を消したんだ。

当時は内気で
いじめられていた真優が、
若いふたりにとって
重荷だったのだろう。

明るく楽しい家庭を
夢見ていた
若いふたりの夫婦。

いじめられて
ただ泣くばかりの真優は、
ただの邪魔者だったのだ。

当時真優は7歳、
両親は母親が23歳、
父親が25歳だった。

結婚してすぐ
真優を産んだからだ。

そして、
ひとり残された幼い真優は
おじに引き取られた。


そんな頃からだ、
真優が変わったのは。


俺と真優は幼馴染みで、
保育園から一緒だった。

両親を失ってしばらくすると
真優は学校に来なくなった。

先生が家庭訪問をしたり
皆で寄せ書きを書いたり、
俺は家に訪ねたり。

俺を家にあげて
普通に遊ぶくせに、
真優は決して
学校には来なかった。

いじめと両親の失踪が
彼女の幼い心に
深い傷を残したのだろう。


そして、真優はとうとう
小学校の卒業式も欠席した。


その後中学にあがり、
俺たちは付き合いだした。

キッカケは、
ひとつの好奇心からヤった
大人の行為。

それ以来、
おじがいないときに
学校をサボって
家を訪ねては、
真優とヤりまくった。

その度に、
彼女が心から満たされるから。

俺は最初は、
彼女の心を癒して
また学校に復帰できるようにと
始めたつもりだった。

だが次第に、
真優に、
真優自身に、
愛情がわくようになった。

それからというもの、
俺等は
体だけの関係だったのを
本格的に恋人らしくした。

デートに行って、
プリクラ撮って、
普通に泊まって。

たまに勉強会なんかもしたが
真優はやはり、
九九もままならない。

真優は自分で、
おじの店で働いて稼ぐと
決意していた。

だから俺は
無理に学校に行かそうとせず
彼女のしたいことをさせた。


その結果がこれだ。

頭は小学二年生レベルの
容姿はまるで高校生以上。

彼女の人生は
普通じゃない。

だからこそ、
結婚したとして
苦労は付き物だろう。

だがそれを
ふたりで越えていくと
決めたんだ。


真優の笑顔を見る度、
こいつが未来の花嫁だと
毎回思う。

真優もきっと
俺のことを
未来の花婿として
見てくれているだろう。

真優はそこそこ
家事もできるし、
俺だって
勉強はできる方だ。

ふたりでしっかり稼いで
幸せに暮らすんだって、
いつも話してる。

実現するまで、
あと3年はかかるけれど。



「ねえ翔」

「ん?」

「あたしを、
御門真優にしてね」

「……わかってる」



俺たちは抱き合った。

そして、
誓いのキスを交わした







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