黒衣の金獅子
[京の都](1/3)
拍子木の音が鳴り響いた。

その音が鳴る前から既に殺し合いは終わって静寂が続いていたから良くその拍子木の音が山中に響いた。

嵐は血まみれで刀を握り呆然と空を見上げ立ち尽くしていると後ろから壱鎖が肩を叩き拍子木を鳴らす翁のもとへと行こうと何も言わず顎で小屋を指す。嵐も何も言わず頷き壱鎖の後に続いて翁の居る小屋の中に戻る。

そして2人が去った庭には仲間達の亡骸が何十体も転がっていたのであった。


 翁は腕を組み凛として血みどろに汚れた2人を見ても厳格な表情一つ変えず座って待ち構えていた。

「翁、生き残ったのは俺たち2人だけです。あとは皆殺しにしました。」

壱鎖がそう話せば「按ずるな、弱き者が悪い」と翁はそう低い声で返した。

俺たち2人が皆殺し…?

皆殺し…

そうだ、俺も殺したんだ…。


嵐はそう思った途端に体から力が抜けてしゃがみ込んでしまった。するとそんな嵐を見て翁は立ち上がり話しかけながら歩み寄る。

「嵐、京の都にはこれ以上の精神の試練は待ってはおらん。だからこそ今立ち上がり、乗り越え、何事も屈せぬ強き魂を手に入れるのだ。」



翁の言葉を受け入れ、嵐は無理やり足に力をいれて立ち上がった。

「身体を清めよ、山を降りる支度に入れ」

翁が2人にそう命令した時だ。
ガラリと引き戸を強引に開ける音がして、視線をそちらに向ければ血まみれの巨体に鳥頭。吠児だ。吠児もまた生き残っていたのである。
吠児は肩で荒く呼吸をして、充血した瞳が翁を捕らえた途端に吠児は翁に殴りかかった。

しかしそれをすかさず察知して壱鎖は鎖鎌の刃を吠児に着き付けた。

「吠児、誰に手をあげている?」
壱鎖が問えば吠児は素手で鎖鎌の刃の部分を持ち、その怪力で鎖鎌を壱鎖から取り上げ、さらに力を加えれば鎖鎌の刃を片手で砕いてしまった。

「翁、俺はあんたが憎い!精神の試練だかなんだか知らねぇけどな、仲間をこんな形でまた無くす事を知っていたら俺はあんたなんかに着いて来なかった!あんたは…あんたは俺のかつての仲間達が正義面した糞侍共に皆殺しにされたその過去を知っているはずだ!」

吠児の鎖鎌を砕いた右手からは鎌の刃で切れたのであろう傷口からおびただしい血が流れ床に滴る。しかし翁はそれでも表情一つ変え無かった。

「昔も今も俺は、仲間を守りたかっただけなのに…いつのまに俺はこんな化け物になっちまったんだ!!!」

吠児が怒りに任せ振るった拳は土壁を破り、粉砕し穴が空く。

「最初はこのまま逃げようと思った。でも、殺してしまった仲間や他に死んでいった仲間達が俺が逃げてしまったら一体なんの為の犠牲だったのか。報われない、無念だと気づいたんだ。だから俺はここに帰ってきた。」

吠児は血が流れる拳を翁に差し出し翁をまっすぐ見て話す。

「俺は死んでいった仲間達の為にこの拳を長州に捧げる。」


血は流れ続け床を染めていく、翁は尚表情一つ変え無かった。

「3人、身体を清め山を降りる支度をしろ。」

今すぐにだ。早く

翁はそう言い残し、屍が転がる外に出て行った。

3人は返り血を井戸水で洗い流し、新しい着物に着替えて傷の手当てと軽い荷造りをして外に出てみれば、翁が墓を作ったのであろう。
土を掘って埋めるだけの簡易的な墓が出来てそこに一本、刀が挿してあった。

翁は3人が支度出来たのを確認すれば笠(かさ)を深く被り、今まで過ごした小屋に火を放つ。それはもう二度とここには帰って来ないという無言の意味。
燃え盛るかつて仲間と過ごした家を3人はそれぞれどんな気持ちで眺めただろうか、「行くぞ」と翁の一言、翁を先頭についに3人は山を降り、京を目指すのであった。


半日かかり4人は山の麓の村まで降りてきた。ちらほらと人の姿を見えてくる。
嵐は翁の命令で黒髪の長いカツラを首元で一つに束ねたものを被っていた。やはり嵐の金髪では目立つという事なのだろう。

「なあ吠児、さっき話してた事、聞いてもいいか?」
嵐の隣を歩く吠児に話しかけた。
「さっき話してた事?俺なんか言ったけ?」
吠児は首を傾げる。
「糞侍共に仲間を…って話だよ。」
「ああ…嵐にはまだ話した事を無かったたな」

前を歩く翁と壱鎖の背中を見ながら吠児は話はじめた。

「俺はな、小さい時戀奉(れんほうたい)一味だったんだ。」

「れんほうたい?」

「俺の住んでた町は、まあ…貧困地区で治安も悪過ぎて、サムライが見回りきたり何か争いごとがあっても一々サムライが治めにきたりしないのよ。だから代わり問題を治めたり解決したりする集団。…まあ、ぶっちゃけ解決方法って殴ってコンテンパンに悪い方を黙らせるだけなんだけどな」

ガハハと吠児は仰け反って豪快に笑った。

「けどさ…コンテンパンにやっつけたな中に糞侍と内通してるやつがいたんだ。何故か俺達が悪人扱いされて、みんな俺の目の前で斬首刑にされた。俺はガキだったから、皆が捕まる前にお前だけは生き残れ、生き残って世の中を変えろって逃がしてくれたんだよ。翁の元に。」

まあ、詳しい事は京都に着いたら酒でものみながらゆっくりな。と、吠児は話を終わらせるそのタイミングと同じに前を歩いていたはずの壱鎖が足を止めて吠児は壱鎖の背中にぶつかってしまう。

「壱!てめぇ、いきなり止まる…」

吠児が声を上げようとした時だ。
壱鎖の殺気のような冷たい視線でずっと前を歩いている翁を見つめていた。
そして、隣を見れば嵐も壱鎖ほどでは無いがピリピリした空気。
そして、吠児もまたそれに気づくと警戒心や強めた。






「旅のお方、もし」
翁は若い女の甲高い声のする方を振り返ると腰の曲がった弱々しい老人と齢17程の町娘がいた。
老人はゼァハァ息を切らし前かがみになって道端に伏して町娘はその老人を心配そうに介抱していた。あながち孫なのだろう。

「今、山沢のお医者のもとに行こうとした道中祖父が苦しみだして、いつもの発作だと思うのですが、この状態ではお医者のもとまで持ちません。今、どうしても祖父に薬を飲まさなければいけぬですが、水をきらしてしまい、旅のお方、水をもっていたら少し分けていただけませぬか?」

眉をひそめ懇願するように苦しむ祖父の背中をさすりながら少女は翁に頼む。翁は無言で懐から水の入った竹筒を取り出し少女に渡す、少女はありがとう、とスッとその竹筒を取ろうと翁に手を伸ばしたその瞬間だった。

一瞬で壱鎖が翁を庇うように少女から翁を引き離して間に入り、
嵐は少女の後ろを取り首もとに隠していたクナイを突きつけ、弱りきった老人を羽交い締めにして押さえつける吠児、その3人の姿。

しばらく、張り詰めた空気が流れる。
すると苦しんでいたはずの老人が吠児に押さえつけられてるのにも関わらずクスクス笑いはじめた。
そして何故か翁もクスクス笑いはじめ、2人の笑い声は次第に大きくなり最後はガハハとやまびこを響かせる程の大きな笑いになり、3人はなにがなんだか分からず困惑していると、羽交い締めにされた老人が口を開いた。


「源郎斎殿!久方ぶりじゃあ!
お前らもしばらく見ないうちに毛が生えた大人になりよって!」

「喜三郎もまた、しばらく会わないうちに演技が上手くなったのぅ、さあおまえらそやつらを離せ、敵ではない。」

嵐は少女から離れ、吠児もまた老人を話した。

「しかし見事、源郎斎殿のしつけのたまものですな」

老人はさっきまで曲っていた背中がピンとまっすぐにして立ち上がりながら話す。少女も埃を払いながら立ち上がると着物の振袖に光るものが見える。
目を凝らしてみれば翁から竹筒を受け取ろうと伸ばしていた手の方の振袖にはクナイが仕込まれていたのだ。
そして普通の少女しては出来そうにもない刀できられたような大きな傷が手首から腕まで伸びてある。

「其れがしの名前は井之頭喜三郎、
京にいるお前たちに長州の命を伝える伝達方である。そしてこの娘ッ子が
凪(なぎ)。京にて、お前たちより先に使命を受け任務を遂行している言わばお前らの先輩だ。あとで京に着いたらゆっくりまた挨拶すると思うから、今はな…こいつ、仮の姿だから少々機嫌悪くてな…」

喜三郎から話を振られると凪は深いため息をついて一言。

「あからさまな殺気。」

さっきまで優しそうな町娘は一気に表情がかわり気怠そうに一言話すその声を聞いた瞬間壱鎖、嵐、吠児は凍りつく


男。

さっきまで甲高い可愛らしい少女の声から一変。声変わりをした野太い男の声。そう、この町娘は男だったのだ。

「あと、目先にとらわれて後ろにも注意を向けないと君たち今ごろしんでるよ」

後ろ?といわれそれぞれ後ろを見るともう一人、齢15ほど、おそらく今その場にいる人の中1番若く、背も低い小柄な少年。無邪気に微笑む表情とは裏腹にその手にはクナイが握られていた。喜三郎が紹介する

「そいつの名前は律太。お前らは源郎斎殿に拾われてから忍の道を極めたのだろう?しかしこの律太は違う。生まれた時から忍の世界で育ったやつでな。パッと見小さいからといって甘くい見ないほうが良い。」

喜三郎がそう話すと律太は不機嫌そうに膨れてクナイを懐にしまう。

「やめてよ喜三郎、皆怖がるでしょ?
僕ね、やっと友達が来てくれるって楽しみにしてんだからね。それなのに印象悪くすること言わないでよ」

声変わりもまだ半ばな中音域の甘い少年の声。律太はトコトコと三人に近づきキラキラした瞳で見上げて話す

「あらためまして!僕は律太、みんなからリツって呼ばれてる。僕ね、兄ちゃん達に会えるのすごくすごーく楽しみだったんだ!いっぱいいっぱいお話したいな!」

本当に忍?と疑ってしまうぐらい無邪気で純粋な少年の律太。3人は思わずうろたえる。

「これからはこの5人、協力し合って任務遂行ほう頼んだぞ」
喜三郎が言った。

「ふん、早死にしないようにせいぜい頑張ることだね。」

凪はそう言い残すとさっさとその場をあとにする。

「あっちに兄ちゃん達が乗る馬を用意してあるから、日がくれるまえに京に降りよう!」

律太が走り馬のもとに案内しようと振り返り3人を手招きする。早く招いてどうしても3人と話したいようだ。
翁一行は喜三郎の用意した馬に乗り京都に向かうのであったか。









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