通ってる大学の食堂で藍里は、とある人物に話があると連絡をよこし、テーブルで待ち合わせていた。
「ごめんね。藍里。またせてしまったね。で?話って?」
目の前に座った白いポロシャツにめがねをかけた男性がそう答えた。
男の名前は、笠原 輝(かさはら きら)。
藍里と同い年で同じ大学て、家が代々伝わる医者の跡取り息子だ。そのため、医学の知識を兼ね備えていた彼は、藍里にとって頼れる存在の一人であった。
「……っていう流れの犯行の可能性を考えているんだけど、どうかな?」
「…できなくはないね。」
ことの成り行きをおおざっぱにはなした藍里の言葉に、輝は真剣な表情のまま答えた。
「ある程度の高さと重さがあるのなら、人に刺されたのと同じくらいの強さは出てくるから、その線も考えた方がいいね。」
「…やっぱり…。」
「ところで藍里。君が請け負ってる依頼って、もしかして、渡野家の旦那さん?」
目を丸くした藍里は、顔を輝の方へ向けると
「知ってるの?」
とたずねた。
「ニュース見たし、あの人の主治医が僕のお父さんだからね。」
「主治医?」
「定期的に訪問してたみたいなんだ。なんでも、血圧が高かったみたいで、薬も手放せないくらいだってさ。」
「ふーん……ほかには何かある?」
「特にはないけど、強いて言うなら、息子さんの事で頭を悩ませてたみたいだよ。成人してもろくでなしって言って……。」
「ちょっと待って!?」
藍里は、思わず声を上げて輝の言葉を止めた。輝は、不思議そうな顔をして、目をぱちくりさせていた。
「……息子さん、いるの?」
「…いるよ?」
「……今何歳?」
「確か……28くらいかな?」
「おかしいな……嘉代子さんは、10歳の頃に死んだって……。」
矛盾していることに、藍里は顎に手をやって考え込んだ。