俊亮の親戚が失踪しやがった
  そこらへんにある真実 (18/18)


智美「二人は誕生日祝ってもらったことある?」

川原が帰ったあと、智美が俊亮と隆博に訊いた。

俊亮「今は四天王のメンツと大学の友達が」

隆博「俺もです」

智美「そうか…」

隆博「どうして急に誕生日が?」

智美は苦笑いをした。

智美「私ね、祝ってもらったことなかったの(笑」

笑って言うわりには二人は笑えなかった。

俊亮「智美さん誕生日って夏休みでしたっけ?」

智美「夏休み中だから学生時代は祝えないじゃん?大学では完全に忘れられてた(笑。旦那は仕事でそれどころじゃないもの(笑。だから修羅さんがいつも祝ってくれた」

そのせいか修羅の誕生日を祝いたくて智美も企画しようとしたが、なにせ鬼だし、歳は恐ろしい数字になるため誕生日が正確にいつだか把握できなかった。

だから智美が修羅の誕生日を決めた。

初めて会った8月2日。

それが現在の修羅の誕生日ということになっている。

智美「私が誕生日(と勝手に決めた日)に祝うまで修羅さんケーキ食べたことなかったみたい」

隆博「そういや修羅さんケーキ食べてるとこ想像できない(笑」

俊亮「和菓子は何回か見たことあった(笑」

7年、智美が修羅を自宅に招いて高校生でそれなりに頑張って作った不格好なホールケーキを差し出した。

修羅『初めて見ました…これは何というものでしょうか?』

全体を包む柔らかな白いクリームに鮮やかな苺、その中央にあるチョコプレート。

智美「ケーキ知らなかった?」

修羅には未知のものでありながらも、どこか甘美なものという認識はできた。

修羅『はい…初めてです。これどうやって食べればいいんですか?』

まじまじとケーキを見る修羅にフォークと取り皿を渡した。

智美「これ使って食べて。今切り分けるね」

智美はホールケーキを6分の1に切り分けて修羅の皿に移した。

修羅『…いただきます』

未知の食べ物のため恐る恐る先の方をフォークで切り分けて口に運ぶと、和菓子とは別の甘さが口に広がった。

修羅『…美味しい…』

智美「よかったぁ」

修羅『これがケーキというものですね…調和寺院の漬物より美味しいです』

智美「…何でケーキと漬物を比べるの…」

修羅『誕生日というのは相手の産まれた日を祝ってケーキを食べるのですね』

智美「ケーキとは限らないけど一般的には計画的かな」

修羅『これほど私めが誕生したことをお祝いしてくれたのは智美さんが初めてです』

智美「そんな大したことしてないんだけどな」

修羅『何を仰いますか。私めがこの世に存在したことが間違いではなかったのかと何度も思ってきたのですから…』

あのときそういいかけて修羅は黙った。

話を聞いていた俊亮と隆博は驚いた。

当時の智美も驚いた。

修羅『私めは悪いことをたくさんしてきました…私めは嫌われても恨まれても仕方ないのです…』

智美「でもそれ何世紀も前の話でしょう?」

修羅『被害者がいなくなっても…自分のしたことは消えないのです…』

智美「…今は変われたんだからさ…」

そこで智美も言葉が詰まった。

変わりに涙が止めどなく溢れた。

修羅『…ご、ごめんなさい!』

修羅は智美を泣かせたことについて謝ったわけではなかった。

守護神にしても鬼にしても泣くことはできない。

あまりに強いとその代わりに守護神に持つ人がその涙を受け継いでしまうリスクが存在した。

智美は子供のように声をあげて泣き続けた。

修羅『…ごめんなさい…ごめんなさい…』

智美は一向に泣き止まず、修羅はどうもできずにただ、謝り続けた。

でも智美も修羅も解っていた。
修羅の涙だけではなく、智美の涙も混ざっていた。

修羅『…ごめんなさい』

修羅は智美を胸に抱き寄せてただただあやすしかできなかった。

もう修羅には泣きたいという感情はないのに智美はしばらく修羅の胸の中で泣き続けた。

修羅『私めをこれほど大事に思ってくれる人間は安齋師匠と智美さんだけです…私めには二人しかいないのです…だから、智美さんの誕生日は私めと一緒に…』


話は終わって、俊亮は思った。

誕生日という日を作り、祝ってくれたことも嬉しかったのだろうけど、当時の修羅は智美を抱き締めることができたことが一番嬉しかったんじゃないだろうか。

けれど守護神の涙が智美に受け継いでしまい、その代償の重さを1人感じたのかもしれない…と。




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